newdubhall is a sound label since 2017. experimental dub music from the far east.

talking place Undefined インタビュー pt.2:〈前編〉 ─定義なきダブのミステリアスなドラミング─

talking place#12
with Undefined pt.2

Undefined

キーボード&プログラミングのSaharaと、ドラムスのOhkumaにより結成されたエクスペリメンタル・ダブ・ユニット。
2017年デビュー7インチ「After Effect」をリリース。以降、こだま和文との共作「New Culture Days」、dBridge、Babe Roots等との共演/リミックス作品を発表。2022年4月、アメリカ・ポートランドの〈Khaliphonic / ZamZam Sounds〉よりPaul St. Hilaire、Rider Shafique、Ras Dasherを迎えたファースト・アルバム『Defined Riddim』をリリース。

前回に続き、レーベル〈Newdubhall〉を主宰するアーティスト・ユニット、Undefinedのインタヴューをお届けする。キーボード、そして主にレーベル〈Newdubhall〉の運営を行うSaharaに続いて、今回はドラムスのOhkumaに登場願おう。前回も記した通り、レゲエの定石においてバンドの中心はやはりドラム&ベースであるが、Undefinedはキーボードとドラマーによるユニットだ。レゲエの~と書いたが、よくよく考えれば、他のジャンルを考えても実に変則的なスタイルでもある。しかし、そのサウンドを聴くと、まさにこの絶妙な組み合わせこそがそのオリジナリティ溢れるダブ・サウンドの要であることがわかるのではないだろうか。その表現のインパクト、全体のイメージとして、やはり「ドラム」というのがひとつフックになっているサウンドであることは一聴すればすぐにわかるだろう。もちろん、前述のようにドラムやベースラインが主役になるジャンルということを除いてもそのサウンドのインパクトは大きい。

例えばこだま和文との「New Culture Days」。ダブを言葉で表現する際に、そのドラムの現れ方を、そぎ落とされたある種の骨格、スケルトンな音楽と表現する場合があるが、かの曲はそんな「そぎ落とし」のレベルではない。もはや半身が透明に消されてしまった、そんなリズムの骨格がこだま和文の緊張感溢れるトランペットと歩んでいく。現れては消える幽霊のようなドラム、しかし、その存在を消した瞬間ですら頭にはそのロッカーズ・リディムの続きが鳴り響いている。まさにダブの引き算の美学を極限まで切り詰めたそのサウンドには間違いなく、Ohkumaのドラミングがあってはじめて成り立つものだろう。フルコンタクト直前まで迫るドラム、その「存在しない」時間が支配するグルーヴは、不思議とルーツ・レゲエのあのノリを示す。間引かれたドラミングでもそれを体現するのは、やはり彼のレゲエ・ドラマーとしてのひとつの特性が浮かびあがってくる、そういった楽曲だろう。しかし一転してライダー・シャフィークをフィーチャーした2019年のシングル「Three」では、どこかCANのヤキ・リーベツァイトを彷彿とさせる、モータリックなミニマリズムとミリタントなステッパーの感覚が独自の感覚で結びついたサウンドで、やはりこの曲にしても「ドラム」がそのサウンドに大きなインパクトを与えているようにも思えるのだ。

実はこのページのお手伝いをはじめて、基本的にはSaharaとのやりとりを行っていた筆者は、これまであまり接点がなかったのがこのインタヴューではじめてゆっくりともうひとりのUndefinedと話した(余談だが、彼は同じ高校の先輩であった)。
今回はルーツ・レゲエ / ダブの7インチをこよなく愛する彼がコロナ禍前には定期的にダブをプレイしていた新宿はDuusuraにて話を訊いた。

インタビュアー:河村祐介 / 写真:西村満

はじまり

まずはじめに音楽にのめりこんだきっかけになったジャンルとかあるんですか?

Ohkuma最初はスカですね。18歳とか19歳のころかな、だから1997年とかそのぐらいですかね。もともと中学生のときから知ってた友人なんですが、そのぐらいの時期にそういう音楽に関して教えてもらったことがあって、そこからはまってしまって。スカと言ってもジャンル的には当時好きだったのは、まだオーセンティックなジャマイカのスカとかではなく、ネオ・スカとかそっちですね。スペシャルズから来ているようなタイプのスカですね。当時聴いていたようなスカは、やっぱりまずロックみたいなバンド形態でもなくホーンが入っていて、その特殊な感じが気になったのがはじめの気がします。ジャズの感じでも、ロックの感じでもなくて不思議な感じがしたという。そこからネオ・スカをいろいろと追い始めて。

当時だとちょっとスカコアみたいなものも流行ってましたよね。

Ohkuma自分は、そっちには行かずに、ネオ・スカからオーセンティックなオリジナルのスカに行ったという感じですかね。やっぱり〈クラブ・スカ〉とかは行ってましたね。そうこうしているうちに今度はそこからオリジナルのスカに行って、さらにレゲエに行きついてという感じですね。

ドラムに関して、例えば中高生の頃にやってたとか、そいういうのはあるんですか?

Ohkumaいや、ドラムをはじめたのはむしろもっと後ですね。ドラムの前に、仲間内でやってたスカのバンドでトロンボーンをやってました。それは20歳ぐらいの頃かな。そこからドラムをやるのはもう少しあとでSoul Dimension のとき。Soul Dimension がドラムはじめたきっかけで、バンドをスタートさせたのは平成15年だから、2003年ぐらいかな。

え、ドラムはSoul Dimension をはじめたのがきっかけなんですね。驚きです。少し話は飛ぶかもなんですが、Soul Dimension をはじめたきっかけというのはあるんでしょうか? 当時の状況としてはドライ&ヘビーとかカルチベイターとか、わりと生のダブ・バンドが活動していた時期ですよね。

Ohkumaそういう動きの影響はやっぱりありましたよ。ドラヘビ、カルチも影響はあったと思いますね。ライヴも行ってましたし。

そこで自分たちもやってみようと?

Ohkumaそういう感じだと思います。

Soul Dimension には、オオクマさんの他に、Jagabe(Soul Dimension の他に、その後、Reggaelation independAnceなどで活躍)さんとかがいらっしゃってという感じだと思いますが、どのようなつながりの人たちだったんですか?

OhkumaJagabeは、一番関係が古くてSoul Dimension よりも前に知り合っていて。さっき言ってたトロンボーンをやっていたスカのバンドの話をしましたけど、その頃からの付き合いで。基本的には、そういうスカとかレゲエとかの音楽の好きの友だちという感じで出会って、バンドをやって、Jagabeに関してはそのまま一緒にSoul Dimension に進んでという感じですよね。Soul Dimension は、その前身というかすでに他の人たちがなんとなくバンドをやっていて、僕とJagabeがそこに入っていくという感じですね。

スカから、ルーツ・レゲエ~ダブを選んだきっかけは?

Ohkumaもともとスカを聴いていた時期から、どちらかと言うとメジャートーンの楽曲よりも、マイナー調の楽曲が好きで、その延長線上でルーツ・レゲエに行って、そしてダブにハマってしまったという感じですね。

レゲエのドラムのタイム感とかって、わりと独自のモノだと思うんですけど、どうやって体得していったんですか?

Ohkumaうーん、とにかくライヴのビデオを観ることからはじまって、あとはもう延々とレコードを聴ききながらという感じですね。

でも当時Youtubeもあるわけではないのでかなり映像も貴重ですよね。

Ohkumaそう、とにかくブラック・ウフルのビデオが1本あって、それをよく見てたぐらい……あとは本当にレコード。

ブラック・ウフルということは、バックがスラロビの映像だと思うんですけど。でも、基本的に当たり前ですけど、ライヴの映像ってシンガーやバンド全景がメインで、スライが写ってるところなんて一瞬ですよね。

Ohkumaもう、そのところだけ凝視して。でもあとはやっぱりレコードを聴いて反復練習という感じですね。

まさに「身体で覚える」というところでしかないですけど、苦労した部分とかはありましたか? それとも思ったよりも自分に合っているとか?

Ohkumaなんとなくなんですけど、これは自分に合っているのかもというのはなんかあったのかもしれないですけど、それもどうなんでしょうね。むしろそれよりも、スネアをミュートするのにどうするとか、逆にミュートしないとか、そういうドラムの音色の部分はすごくいろいろと実験した記憶はありますね。レコード・ジャケットのドラムセットみたりとかして。

Soul Dimension とUndefinedの他にドラムは?

Ohkumaほぼほぼしてないと言っていいですね。

さきほどチラッと当時のSoul Dimension の曲作りはオオクマさんがほぼやっていたということなんですが他の楽器とかもやるんですか?

Ohkumaいやいや、当時は全部打ち込んでデモを作ってましたね。それを持っていてみんなに聴かせてという感じで。基本的には全部打ち込んで……といってもドラムを打ちこんで、ベースラインを打ち込んで、あとは裏打ちを入れて……ぐらいのものですよ。曲作りといっても、それをスタジオに持って行って「さぁやりましょう」っていうぐらいのものですけどね。

打ち込みは? MPCとかですか?

Ohkumaいや、YAMAHAのQYシリーズですよ。あれで作ってましたよ。

おお、ここにもQY使い。QYは本当に名機ですよね(YAMAHAのQYシリーズ、音源付きのコンパクト・サイズのシーケンサー。こだま和文も2000年前後のソロ名義の作品のトラックはすべて、そのQYシリーズで作っていた。詳しくは当コーナーのインタヴュー・ページにて

Ohkumaあれで全部打ち込んでましたね。もちろんデモですけど。Soul Dimension に関しては、打ち込みのバンドでもないから、打ち込むときの音色は気にしなくていいから充分というか。それで作ったトラックをデモというかガイドにしてバンドで練習をするというスタイルで。

Soul Dimension に関してはアルバム『Dawn‎』を2007年にリリース、その後は2012年にJagabeさんのレーベルから7インチを1枚という感じだと思いますが、現在活動はしてないですよね?

Ohkuma解散はしてないけど、やってないという感じですね。まぁ、でも結果的にはそうなったというぐらいで、なにかもめごとがあったとかというわけでもなくて。なんとなくいまに至ってしまったという。

Soul Dimensionがあの時点で『Dawn‎』をリリースしたのは?

Ohkuma当時〈FILE RECORDS〉にいた、(堀井)ヤスさんが「やるか!」といってくれたのがたぶんきっかけだった気がします。

当時『remix』の編集部にいたときにヤスさんがプロモーションにいらしゃってたしかレヴューしましたよ(笑)。おもしろいステッパーのバンドがいるという感じでプッシュされてましたよ。そしてさっき言ったように2010年を超えるぐらいにライヴが鈍化していってというところのようですね。