newdubhall is a sound label since 2017. experimental dub music from the far east.

talking place E-Muraインタビュー:〈前編〉 ─レコーディング・エンジニア、その男、職人につき─

talking place#02
with E-Mura

E-Mura(Bim One Production)

東京からSoundSystem基準のヘビーウェイトサウンドを発信する「Bim One Production」のトラックメイカー/エンジニア。2014年のBimOne始動からオリジナル楽曲と、数多くのヨーロッパ/ジャマイカなどのアーティストのリミックスやトラックを提供。リディムメイカー/エンジニアとして、BimOne以外にも数多くの国内レゲエ作品に携わっている。セレクターとしては、Dub/Reggae/Dancehall/Dubstep等のヘビーウェイトなサウンドを腰の据わったプレイで展開するのが特徴。細分化された日本のレゲエ界において、その橋渡し的な存在を担っていると言えるだろう。

RUB A DUB MARKET、BIM ONE PRODUCTIONのトラックメイカー、さらには他アーティストのプロデューサーやリミキサー、そしてセレクターとしても、長らくこの国のレゲエ~ベース・ミュージック・シーンで活躍してきたe-mura。ここ数年の活動においては、さらにもうひとつ彼の肩書きを付け加える必要があるだろう。自身のスタジオ、通称〈ムラスタ〉を拠点に活動する、スタジオ・レコーディング / ミキシング / マスタリング・エンジニアとしての姿だ。スタジオ・エンジニアと一口に言っても、いわゆるダブ(プレート)録りのような音声や楽器のレコーディンングのみから、さまざまな形でレコーディングされた音源を楽曲としてひとつの音声へと融合させるミックス作業(彼の場合はさらにダブ・ミックスもある)、さらには最終的な製品へとサウンドを整えるマスタリングと呼ばれる作業(マスタリングに関してはそれを専業とするスタジオも多い)まで、スタジオ・エンジニアの音への関わり方は多岐にわたる。ある一定の領域を手がけるエンジニアもいれば、それこそアーティストやプロデューサーによっては、音の趣向性によってはそれぞれの作業ごとに使い分ける場合もある。

ここ数年は自らが直接手がけるBIM ONE、さらにはasuka andoのミキシングやマスタリングといった、彼のホームとも言えるレゲエ~ベース・ミュージック系の音源はもとより、最近ではJUZU a.k.a. MOOCHYのプロジェクト、J.A.K.A.M.やブラジルの新世代ダンス・コレクティヴ、Voodoo Hopの日本配給作品、さらにはロック・バンド系のサウンドまで幅広く、ミックスやマスタリングなど、さまざまなパートでエンジニアを務めている。そして〈Newdubhall〉からリリースされたKazufumi Kodama & Undefined「new culture days」のミックスとマスタリングも彼の手によるものだ。

ある意味でアーティストから渡されたサウンドを調整し、リスナーへと仲介する役割を持つスタジオ・エンジニア

インタビュアー:河村祐介 / 写真:太田丞

スタートライン

トラックメイカーやセレクターではなく、エンジニアリングの部分を中心にお話を聞きたいんですが。e-muraさんはそもそもどういうところから音の世界に入られたんですか? DJというのはひとつあると思うのですが、音響的な教育とかは受けたことあるんですか?

e-mura実はあるんだよ。高校を出て蒲田の日本工学院にある音響芸術科というのに行って。

それが基礎になってるんですか?

e-muraなって…… ないね(笑)。ろくに勉強もせずに中退しているから。高校のときからレゲエのレコードを買ってて。高校出ても、特にやることないしでとりあえず行ってみたという感じで……。

RUB A DUB MARKETでの制作は?

e-muraいや、ラバダブの時も全然自分はエンジニア的な動きはやっていなくて。当時はラバダブもインディーズのレーベルに所属させてもらっていて、レコーディングのときはスタジオをレーベルが用意してくれていて。もちろん、そこにはレコーディング・エンジニアさんがいてというところでレコーディングはスタートだからね。エンジニア的な動きのはじまりは10年前かな。当時、eastaudioがアーティストを抱えてた時期があったんだけど。そこでRUB A DUB MARKETとは別に、個人のトラックメイカーとして所属しはじめて。さらに同時期にeastaudioがレコーディング・スタジオを設立したんだよね。それが祐天寺。そこにはちゃんとしたメインのレコーディング・エンジニアさんもいて、俺はトラックメイカーとして常駐していて。そのときにメインのエンジニアさんに、いわゆるレコーディング・エンジニア的な部分も少しづつ教わりながら…… というのがスタートするんだよ。そのあたりで、トッチー(eastaudio代表の)に無茶振りされてエンジニア的なことをやらされて、はじまったんだよね(笑)。わりと最初は無理矢理なんだよね(笑)。

音作りから、レコーディング、アウトプットまで全部できたらいいな、みたいなところから少しづつ広げていったとかそういうのではないんですね。

e-muraもちろん、そういう考えもあったけどね。きっかけとしてはeastaudioのスタジオに所属したこと。それがだいたいRUB A DUB MARKETの『Digkal Rockers』を出したぐらいかな。ただ『Digkal Rockers』は自分がやったわけじゃなくて、ちゃんとしたスタジオで録ってて。

トラックメイカー的なところと、レコーディング、ミキシング、マスタリングというエンジニア的な技能を加わっていくんですよね? マスタリングに関しては?

e-muraPART2STYLEにいた頃ぐらいから自分が手がけていた曲は現場でかける曲も、さらにリリースするものに関してもマスタリングをしはじめてて。そうやって手掛けていた曲の音質を、ダブストアの当時いたスタッフの藤本くんとかから評判が良くて。そこからダブストア企画の7インチのマスタリングを、俺にふってくれるようになって。ちゃんと人の曲まで、エンジニアとしてマスタリングを手がけるのはそこからだね。

ちなみになんですが、レコーディング、ミキシングというのは読んで字のごとくでわりと普通の人でも作業が想像できるような気がするんですが、マスタリングは音楽ファンでもよくわからない作業のナンバーワンかなと。自分なんかは職業柄、スケジュールの関係で、マスタリング前の音源をサンプル音源として聞いて取材して、さらにマスタリング後の音源を聴いて、そのときにマスタリングの大事さを理解するんですが。一般の方ってそういう経験もないと思うんですが、簡単にe-muraさんの言葉でいうとなんですかね?

e-mura俺がよく例えることが多いのは、料理かな。料理の盛り付けになるのかなと。お皿の上に、あるものは変えずに、加えたり差し引きせずに、より美味しく見せてあげるという。マスリングというのは、ファイナル・ミックスの音源がバッチリだという大前提でやるというのが重要な作業だから。なるべくアーティストや、ファイナル・ミックスを手がけたミキシング・エンジニアが意図したものを変えないように全体像を整えるということ。もちろん、アーティストからの音のポイントで要望があれば、盛り付けに例えると「この食材が見えやすく」みたいなことをやることもあるけど。

先ほどの話でいうと、PART2STYLEのトラックメイキングというと、いわゆるレゲエやベース・ミュージックということになると思うんですが、そこがマスタリング技師としてのe-muraさんのスタートラインですよね。ということはマスタリングのエンジニアとして考えるのは、やはりサウンドシステムとの相性ということですよね。

e-muraそれはすごい考えてたね。

しかも日本でも有数のeastaudioシステムがあって、その鳴りという部分で自分のマスタリングの感覚を磨いていったというのは大きいですか?

e-mura大きいね。eastaudioのセットで良く鳴るようにというのをまずはめがけてやってたからね。そこでは、低音はもちろんなんだけど、意外と高音の作り方も重要なんだよね。

当時、ベース・ミュージック系で参照にしていた、マスタリング・スタジオとかってどのあたりですかね?

e-muraいまもだけど、やっぱりヨーロッパのサウンドシステム系というか、MUNGO'S HI-FIとか、あとはDEEP MEDIとかブリストルの連中がみんな使っているSTAR DELTAかな。そこが手がけているものはやっぱり参考とか、比較対象としていまだに聴いているかな。

参考にというと波形を見るんですか? それとも体感ですか?

e-mura両方だね。あとは、こういう分析というと、自分の環境で聴こえるものがよそでどういう風に聴こえるかを理解するというのも大事だと思っている。自分のスタジオの環境の特性をキャッチすることで、外のシステムでの聴こえ方を想像、シュミレーションできる。それが大事かもしれない。

例えば外で、他のジャンルの音源を聴いたりというときに、マスタリングとかも気になります?

e-mura気になるね。遊びに行ってもどうしてもね。