newdubhall is a sound label since 2017. experimental dub music from the far east.

talking place E-Muraインタビュー:〈後編〉 ─レコーディング・エンジニア、その男、職人につき─

talking place#02
with E-mura

「MURA-STA」のはじまり

現在の個人のスタジオを作ったのはいつなんですか?

e-mura2010年だね。祐天寺のスタジオを締めることになったんだけど、でもだからといってエンジニア仕事自体がなくなったわけじゃないから、そこで使っていた機材をどうしようという話になって。それで「うちの実家が空いているから、そこに持ってこうと」ということで。

いわゆる自身が出がけていたPART2STYLEとかの音源ではなく、徐々に他のアーティストなんかのレコーディング・エンジニア仕事が増えてきた時期ですかね。

e-muraそうだね。自分がやってたやつ以外だと、ダブ録りとかがはじめになるのかな。記憶がちょっと曖昧だけど。

いまのスタジオでやれることは、ミキシングとマスタリング・データの作成と、あとダブ・プレート録りのヴォーカルとかですか?

e-muraあとは小さい楽器だね、それは単純にレコーディングするルームのサイズの問題なんだけど。

いままで、特にマスタリングで手応えがあった音源というと、どれにあたりますか?

e-muraやっぱり最近だとブードゥーホップかな。アーティスト本人たちにも褒めてもらえたし。自分でも、本当にいい仕事したなって思える鳴りのものができて。

座右の名機的な機材ってなんかあるんですか?

e-muraう~ん。WAVESかな。

わりと普通に標準的なマスタリングソフトですよね?

e-muraそう、そう、俺は普通だよ!(笑) 新しいものが出たらそれに飛びつくとかはあまり俺はしなくて。使いはじめると、とことんその機材なり、ソフトを使い込むタイプなんだよ。でもその環境でさんざんやり尽くして、その限界が見えたら他の機材を買うということもあるんだけど。

ミキシングで考えたときに、トピックとして大事なことってなんですか?

e-muraこれっていうのはないんだよね。やっぱりヴォーカルの作り方かな、ヴォーカルに対して、どうやって音を配置していくのかっていうのを考えることが多いかな。ヴォーカルを美しく出すていうのはずっと考えてやっているかな、それは録りも含めて。ヴォーカルを作るのが一番苦手なんだよね(笑)。

Kazufumi Kodama & Undefined「new culture days」のマスタリングのときはどうでしたか?

e-muraあるていどカズ(Undefined)が作り込んだものだから、カズの意向を尊重しようという。コミニュケーションは細かく取ったね。最初の最初に、俺の思うように作ってみて聴かせんたけど、それがカズが考えてた感じと違ったみたいで(笑)。「なるほど、カズはわりと、録った状態の音を生かしたいタイプだったんだ」と思って。そのとき俺の方は、生音が素材でも、打ち込みで作った音みたいにしたくなるタイプだから。

その距離をコミュニケーションで縮めていく作業という。

e-muraそうだね。いろいろ本人にもここに来てもらって、試したりしながらやったね。はじめにラフで聴いたときは、まぁ、ベース・ミュージックとかレゲエ、ダブ系の音だから、正直はじめは「チョロそうだな」って思ったんだけど(笑)。音数も少ないしさ、レゲエものはやっぱり得意だと自分では思っていたから。でも、いざ取り掛かってみたらびっくりして、「これほど難しい音楽はない」という感じ。いわゆるリズム&サウンド的な打ち込みの音楽と、生音の荒々しいドラムというふたつが混ざっている音楽。ある意味で、そんな別のふたつの音楽をひとつにしているわけだからさ。ベーチャン的な打ち込みと生ドラムって、正直、むちゃくちゃ相性悪いんだよ(笑)。

繰り返される実験

なるほど。ちなみに、アナログのマスタリングってどんなフォーマットで作るんですか?

e-mura基本はいま、すべて24bitでやるんだけど、ヴィンテージな質感を目指す時は逆に16bitのマスターのほうがいいときもあるんだよね。24bitで作った音源はどちらかといえばクリアで、16bitのマスターをアナログにカットすると温かい音になったりする。asuka andoも24bitと16bitも持って行って、現場でカットしたら16bitのマスター音源のがいいねっていう話になったしね。Newdubhallは24bit。もちろんいまの基本は24bitで、試すときは16bitっていう感じだね。あとはサンプリングもののヒップホップとかは、むしろ制作の段階から16bitのほうがいいみたいとかいろいろあるね。そうやって作った音源は、その手のヒップホップに向いた音になるというか。あと、ベース系とかだと、Star Dletaなんかは、マスタリング前にオープン・リールに一旦落として、それをデジタルで取り込み直しているみたい。それはテープだけあって、すごい値段がかかるんだけどね。なんでも一度、ベースの部分だけオープン・リールに落とすんだって。OBFの「Mandela」って曲があるんだけど、それはベースだけオープン・リールテープに落としていて。でもね、あの曲のベースはすごい鳴り方するんだよ。

え、シンセベースをテープに一度ってことですか?

e-muraそうそう。

いまだにエンジニアリングの世界では、やっぱり定番があるわけではなくて実験が繰り返されているっていうことですよね。サウンドシステムとの関係性でいうと、いわゆるシステム・カルチャーとはまた別に、いわゆるPAもファンクション・ワンみたいなものが出て来て、ここ15年とかで解像度が変わって、低音の作り方とかが変わったみたいに言われているじゃないですか。

e-mura一時期は、そういうシステムが登場したことで、より低域、具体的に言えば30Hz台のベースをいかに鳴らすのか、みたいなところまで出て来たよね。そういう感じは、いまはちょっと落ち着いたけど。もうね、あそこまでいくとね、音というよりも「風」だけどね。ただ、あんまりその競争は自分としては興味なかったかな。

それよりも音楽的に鳴らすという。

e-muraそう。いまはもうちょっと音楽的なところにちゃんと戻ったんじゃないかと。てか、あんなことばっかりやってたら、疲れちゃったんだと思うだよね(笑)。

「いいのができたな」っていうのはどんな音源ができたときですか?

e-mura通して聴いて、なんのストレスもない音源ができたときかな。聴いていて、どこかつっかかりがあると、もしそれがミックスも自分が手がけている音源だったら、一度ミックスに戻って修正するよね。そうやってつねに実験をしているという感じ。そういえば、意外と2つとか3つとかの案件を同時進行していると、片方で気づいた方法論とか、もうひとつで使ってみたらすごいよくできたというのはある。でも基本的に自分は、1回「コレだ」と思った手法があると、それを徹底的にやるという感じなんだよね。でも、逆にそこに凝り固まっちゃう悪い癖もあるんだよな(笑)。だから過去に凝ってやってた手法とか「クソだな」って自分で思うこともある(笑)。

ちなみにいま凝っているのは?

e-muraいま、凝っているところだとやっぱりコンプかな。当たり前だけど、マルチ・コンプの扱い方ですごい変わるから、そこかな。日々の作業で気づいとしか言いようがないけどね。

エンジニアとしての視点

エンジニア視点で音が良いと、ご自身で思う作品ってなんでしょうね。

e-muraこれはいろんなエンジニアさんとかPAさんとかもいうけど、やっぱりねドナルド・フェイゲンの『ナイトフライ』。やっぱりそこにいきつくね。あの打ち込みみたいな音とかすごいよね。実際に録音もパラでレコーディングしてて、いまの打ち込みみたいな感じなんだろうけど。もちろん、レゲエとかでも好きな音質というのはあるんだけど。

エンジニアとしての耳になるとそこなんですね。

e-muraそうだね。あとはレゲエのとんでもないバランスの音があるんだけどね。あえてそこに行くようなのももちろん好き。例えばリー・ペリーものの一連は強烈。アレは録音の段階から変なのか、ミキシングの段階でそうしているのか、もうね……なんだろうね、という。直接、リー・ペリーに聞いてみたいもん、いまだに。チューニングからあの音なのかとか。その道の研究家のなかではよく知られていることなのかもしれないけど。

こうヴィンテージな機材とかはどうなんですか?

e-mura俺さ、「これを通すだけでとりあえずOK」みたいな機材って全く信用してなくてさ(笑)。んなわけないじゃん。もちろん、いろいろなタイプのエンジニアさんがいると思うけど、自分の仕事としてはそういう感覚じゃないかな。機材オタクと技術者はまた別物じゃないかなって思うんだよね。それよりも、自分の環境でいかにベストを尽くせるかだと思っていて。アナログの卓を通してから必ずマスタリングするとか、そういうやり方ももちろん試したことあるけど、そこまでいうほど大して変わらないんだよね(笑)。もちろん音自体は変わるんだけど。

せっかくスタジオに来たので、お聞きしたいんですが、いま立ち上がってる、このスタジオでやっている作業はなんなんですか?

e-muraこれはダブ・ミックスいまちょうどやってて。そういえば、俺、ダブ・ミックスに関してはライヴ・ダブ・ミックスはやらないんだよね。

ああ、そうなんですね。DAWで全部設定していくっていうことですか?

e-muraそうそう。俺さ、ライヴ・ミックスやっていると思われてて、ライヴ・ダブ・ミックスのオファーもくるんだけど……やったことないんだよね(笑)。作品として残すとなるとDAWで指定して作っていく。それは作品としてベストのダブ・ミックスを作るのに、手動じゃ不可能なこともできるしね。よりダブ・ミュージックの向こう側にいけると思うし。自分の作り方としてはそっちの方がおもしろいかな。でもライヴ・ダブ・ミックスをやっている人を見ると憧れるよね(笑)。

いまのエンジニアの視点って、e-muraさんてDJやってたことも大きいですか?

e-muraそれはあるかもね。でもDJあがりのエンジニアってあんまりいないよね。人にそそのかされてここまできたからな、DJもそうだったしさ(笑)。俺、最近きづいたんだけど、そんなにパーティとか好きじゃないかなっていう(笑)。そんな人間がそそのかされてDJをやって、ここまで来たんだと思う。

location:ムラスタ/MURASTA
interview date:2018.06.20