newdubhall is a sound label since 2017. experimental dub music from the far east.

talking place COMPUMAインタビュー:〈前編〉 ─広大な音のフィールドを歩き続ける、ある視点─

talking place#13
with COMPUMA

COMPUMA

COMPUMA 松永耕一、1968年熊本生まれ。ADS(アステロイド・デザート・ソングス)、スマーフ男組での活動を経て、DJとしては国内外の数多くのアーチストDJ達との共演やサポートを経ながら、日本全国の 個性溢れる様々な場所で日々フレッシュでユニークなジャンルを横断したイマジナリーな音楽世界を探求している。自身のプロジェクトSOMETHING ABOUTよりMIXCDの新たな提案を試みたサウンドスケープ・ミックス「SOMETHING IN THE AIR」シリーズ、悪魔の沼での活動などDJミックスを中心にオリジナル楽曲、リミックスなど意欲作も多数。Berlin Atonal 2017、Meakusma Festival 2018への出演、ヨーロッパ・ラジオ局へのミックス提供など国内外でも精力的に活動の幅を広げている。近年のリミックス/リリー ス・ワークは、OGRE YOU ASSHOLE「朝(悪魔の沼 remix)」、YPY「Cool Do!(COMPUMA remix)」、 MAJOR FORCE PRODUCTIONS「Family(COMPUMA Mx)、COMPUMA & 竹久圏 「Reflection」等。一方で、長年にわたるレコードCDバイヤーとして培った経験から、コンピレーションCD「Soup Stock Tokyoの音楽」など、BGM選曲を中心に、アート・ファッション、音と音楽にまつわる様々な空間で幅広く活動している。

今回は少し趣向を変えレゲエ、ダブといったところを少し離れて、DJ / アーティストのコンピューマに登場を願った。ソロでのDJを中心とした音楽活動の他、ギターリスト、竹久圏(KIRIHITO)とのデュオ、さらには1990年代より、Asteroid Desert Songs~スマーフ男組の一員として、また最近では野外フェスにもひっぱりだこのDJポッセ、悪魔の沼などなど、その活動は多岐にわたる。そして長らくレコード・バイヤーとしても活躍していて、その審美眼を信頼するファンも多い。現在は大阪のNewtone Recordsにてダンス・ミュージックから、さまざまな実験音楽にいたるまで、音楽の深い刺激を世に問い続けている。そして、つい先頃、単独名義では初となる待望のアルバム『A View』をリリースしたばかりだ。

Newdubhallとの関係と言えば、主宰のサハラがそのDJプレイに感銘を受け、2020年の〈newdubhall 3rd anniversary〉でDJとしてオファー、初の共演となる予定だったがコロナ禍でイベントは残念ながら中止となってしまったのも記憶に新しい。またコンピューマは、それ以前から前述のNewtone Recordsのレコード・バイヤーとして、Undefinedの作品を最初期からプッシュしてくれている存在でもある。もちろん彼がプレイする広大な音楽のフィールドのなかには、レゲエや(広義のものもふくめて)ダブは存在していて。と、本企画には幾度かその取材対象として名前があがっていたが今回、そのアルバム・リリースに合わせてついに実現することになった。

その膨大かつ広大な音楽的な趣向、そこからエッセンシャルに選び出される唯一無二のサウンドを奏でるDJが、今回新たにソロ名義での「作品」をリリースしたわけだが、本作はもともと北九州の演劇グループ〈ブルーエゴナク〉からの依頼によって制作された2021年秋公演の演劇『眺め』のために作られた劇伴音楽から出発している。いわゆるアンビエント・テクノとも、さらにはアヴァンギャルドなエレクトロニック・ミュージックとも違った絶妙なバランスで成り立っている電子音楽で、静かな音像の根幹を成す、心地よい陶酔感、イマジナリーなサウンドは生活へと容易く溶け込み、時に極上の景色も見せてくれる。

今回COMPUMAが取材場所として指定したのは、著者も、COMPUMAのそのDJプレイでいくつもの音楽のミラクルを体感した東高円寺グラスルーツ。リリースされたばかりの6月下旬のうだるような熱波のとある夕方に行われた。

インタビュアー:河村祐介 / 写真:西村満

A View

もともとの経緯としては劇団〈ブルーエゴナク〉の演劇作品『眺め』の音楽という形で作られたということなんですが、オファーの経緯はどのようなものだったんでしょうか?

COMPUMA演劇そのものは昨年2021年の秋、10月の公演でした。オファーのきっかけは2020年4月にブラックスモーカーからリリースされた、自分の『Innervisions』というMIXCDだったようです。劇団代表の穴迫(信一)さんがこれをNewtoneで購入していただいて、気に入ってくださったようで、そこから音楽のオファーをいただいたという感じで。

そういう音楽が好きな方なんですか?

COMPUMAご本人にお聞きしたわけではないので、穴迫さんの音楽の趣向は正直わからないのですが、自分が参加する以前の作品にはOlive Oilさん、自分の後はテンテンコさんが音楽を担当されていたようです。今年2月には、EVISBEATSさんの音楽で、オンライン映像作品も制作されていたようです。

なるほど、その並びだとブラックスモーカーの作品をチェックしていたというのはうなずけますね。

COMPUMAはじめのオファーとしては『Innervisions』のような音を作って欲しいというオファーだったんですよね。『Innervisions』はわりと抽象的な電子音のコラージュとダンス・ミュージックがギリギリ入り交じったような感覚の音をやっていて。そういうDJマナーの延長線上にある抽象的なものだったらなんとかできるかなと当初は思ったんです。それで受けたところもあったんですが、いざ脚本ができてきて、どういう音楽にするのか穴迫さんと話せば話すほど、もう少し音楽的な、ちゃんとした音楽性と言いますか、ほぼこの演劇のサントラ的に音楽も作り込まないといけない。という感じになってきて。しかも全体で9パート、つまり9つのシーンの音楽が必要という事になりまして、、正直焦りつつ、、、これまでにエンジニア的にもここ数年いろいろ手伝ってもらっているhacchi (Urban Volcano Sounds / David Soul )さんに相談して、そこからトライしてみようと制作を開始したという感じなんです。

なるほど。

COMPUMA事前に演劇のキャッチ文というか説明文として書かれてた言葉で、「ミニマル・ミュージック」という言葉があったので、なんとなくその言葉に関しては音のイメージが自分の中で漠然とあったんですが。作りはじめるにあたって、穴迫さんに、いくつか制約というか、ルール(お題)を決めて欲しいとお願いしたんです。MIXCD『Innervisions』はBPM100ほどのDJミックス音源なんですが、今回作る音楽に関しても「”これくらいのスポード感がいい”というのがあれば教えてください。」とお伝えしたんです。そこで穴迫さんから伝えられたのが「BPM90でお願いします。」そして「ミニマルな感覚を持った音楽で」というリクエストをいただいて。だから全トラック基本BPM90なんです。

あ、そうなんですか、なんかもっと幅を感じてました。

COMPUMAそうなんです。いろんなリズムの取り方ができるとも思いますが、基本は90なんです。

もちろんそのときは脚本とお芝居のコンセプトみたいなものを渡されてということですよね。

COMPUMAそれぞれのシーンがどんな雰囲気なのか、それぞれの場面場面で、心象風景みたいなところに影響するようなキーワードとなる言葉をたくさんいただいて。それに合わせて、音がじわじわ変化するところや、突然転換するところなど、そういうポイントポイントも細かくいただくようにしました。それに合わせて音をパズルのように組み合わせて妄想力で楽曲を構築していったという感じですね。演劇のシーンやセリフに合わせて作っていきました。それと、芝居中に音楽の方が先に終わってしまい無音になってしまってはいけないとも思い、どの曲もいただいたシーンごとのイメージする時間より少し長めに作っていったので、どの曲も若干長めになっているんです。

自分は演劇をみてないからかも知れないですけど、「長い」というのは感じなかったですね。むしろ時間感覚が変わっていくというか、「あ、もう終わった」という時間感覚の喪失の方が感想としては近いかもです。

COMPUMAそこは結果的にという感じですかね。制作に関しては、まずは台本があって、芝居のシーンの展開をイメージしながら作っていきました。劇のタイトルが『眺め』だったので、やっぱりどこか俯瞰したような遠近感の「遠」の方のイメージで作り始めたのですが、「眺め」イメージを妄想中に、チャールズ&レイ・イームズの有名な映像作品「パワーズ・オブ・テン」のあの映像がワーっと浮かんできたりして、逆に顕微鏡で見るような超ミクロな眺めもイメージしてきたり、、なんとなく、そんなような音楽にしてみたい。というのがどこか出てきました(笑)。そこから、いろいろな自分の手持ちの機材を引っ張り出して、音を出してみて、台本のイメージに合う音を探して、さらにhacchiさんのスタジオで音や音色を探して、パズルのように試しながら組み合わせて作っていったという感じですね。そうすると段々自ずとパーツのそれぞれの形が見えてきて、組み合わせを変えたり、そこに必要な音色のピースを足したり引いたりというのが基本的な作り方になっていって、そういう意味ではDJミックスにも近い、音素材を集めていく感じで。とにかく音や音色を探して、鳴らして、組み合わせていく作業の連続でした。

制作期間はどいのくらいでしたか?

COMPUMA2021年10月あたまに演劇の開演が決まっていたので、6月末のオファー、7月から準備を始めて、8月、9月の2ヶ月くらいを集中して録音を進めました。ちょうどコロナの影響でDJの現場もあまりない時期でありましたので、そのこともあって制作に集中できたというのはあります。

1枚のアルバムとして出すときに、その後なにか手を加えたりはしているんですか?

COMPUMAもとの劇伴から、大きく飛躍はしてないんですけど、1曲目は今回の演劇のものではなく、行松陽介くん監修のコンピレーション用に作った曲が元になっているんです。この曲を制作したのが演劇の音楽を作る直前だったんですが、この楽曲が出来上がったことで、それによって演劇の音楽制作も勢いづいたという感じで。アルバム1曲目に収録した「Vision (Flowmotion in Dub)」はそれを発展させてアルバム用に新しいヴァージョンにしました。そして、実は今回、この演劇「眺め」の為に作った音楽、これらをアルバムという形で世に出すべきか、すごく悩んだんです。

それはなぜ?

COMPUMA正直、作ってはみたものの、この音楽がどういうものなのか自分でもわからなくて、正直どうしていいかわからなくて。コロナ禍での公演でもあり、東京での公演も無かったので、身近なところでこの演劇を観れた方がほとんどいなかったこともあって、、どうするべきかと悩んでました。その後、何かしらリリースしてみようと思えた時に、あらためて一つのアルバムとして着地させたいと考えた時に、ひとつあったのは、憧れだったダブ・ヴァージョンを、どなたかにお願いして収録したいと思って、そこで、内田直之さんにお声がけさせていただきました。そして、そのダブミックスが戻ってきたときに、それを聴いて、はじめて「ああ、これでやっとアルバムとして着地できるな」と感じて。内田さんのダブ・ヴァージョンがあったことで、アルバムとして本当に着地ができたという感じですね。

行松さんのオファーが助走としてあって、内田さんのダブ・ヴァージョンで完成したという感じなんですね。

COMPUMAそうですね。

わりと引き算の美学というか、おそらく演劇という主役があってという音楽だったというのが要因かもしれませんが、そういう印象をうけました。そのあたり意識した感覚とかありましたか?

COMPUMAそうですね、「眺め」というテーマが、どこかそうさせたのかもしれません。あまり説明しない感じ、少し足りないくらいの感覚、聴き手の想像力に任せる感じ、隙間や余白の部分を残しておくような感覚を目指したと言いますか、確かに、どちらかと言えば、引き算的といえば引き算かなと。

あと思ったのは、音色と楽曲の展開とともに、同じくらいの力でミキシングとかいわゆる音響的な鳴りの部分も重要な作品ですよね。

COMPUMAそこはhacchiさんと細かくトライしてみました。これまでにもhacchiさんとはいくつかの共同作業を経てきているので、おそらく自分の趣向や感覚もわかってくれていて、それもあってより音響も作り込めたというところは大きかったかもしれません。感覚的な音響としても楽しめるようなものを目指したところはあるかもしれません。