A View
もともとの経緯としては劇団〈ブルーエゴナク〉の演劇作品『眺め』の音楽という形で作られたということなんですが、オファーの経緯はどのようなものだったんでしょうか?
COMPUMA演劇そのものは昨年2021年の秋、10月の公演でした。オファーのきっかけは2020年4月にブラックスモーカーからリリースされた、自分の『Innervisions』というMIXCDだったようです。劇団代表の穴迫(信一)さんがこれをNewtoneで購入していただいて、気に入ってくださったようで、そこから音楽のオファーをいただいたという感じで。
そういう音楽が好きな方なんですか?
COMPUMAご本人にお聞きしたわけではないので、穴迫さんの音楽の趣向は正直わからないのですが、自分が参加する以前の作品にはOlive Oilさん、自分の後はテンテンコさんが音楽を担当されていたようです。今年2月には、EVISBEATSさんの音楽で、オンライン映像作品も制作されていたようです。
なるほど、その並びだとブラックスモーカーの作品をチェックしていたというのはうなずけますね。
COMPUMAはじめのオファーとしては『Innervisions』のような音を作って欲しいというオファーだったんですよね。『Innervisions』はわりと抽象的な電子音のコラージュとダンス・ミュージックがギリギリ入り交じったような感覚の音をやっていて。そういうDJマナーの延長線上にある抽象的なものだったらなんとかできるかなと当初は思ったんです。それで受けたところもあったんですが、いざ脚本ができてきて、どういう音楽にするのか穴迫さんと話せば話すほど、もう少し音楽的な、ちゃんとした音楽性と言いますか、ほぼこの演劇のサントラ的に音楽も作り込まないといけない。という感じになってきて。しかも全体で9パート、つまり9つのシーンの音楽が必要という事になりまして、、正直焦りつつ、、、これまでにエンジニア的にもここ数年いろいろ手伝ってもらっているhacchi (Urban Volcano Sounds / David Soul )さんに相談して、そこからトライしてみようと制作を開始したという感じなんです。
なるほど。
COMPUMA事前に演劇のキャッチ文というか説明文として書かれてた言葉で、「ミニマル・ミュージック」という言葉があったので、なんとなくその言葉に関しては音のイメージが自分の中で漠然とあったんですが。作りはじめるにあたって、穴迫さんに、いくつか制約というか、ルール(お題)を決めて欲しいとお願いしたんです。MIXCD『Innervisions』はBPM100ほどのDJミックス音源なんですが、今回作る音楽に関しても「”これくらいのスポード感がいい”というのがあれば教えてください。」とお伝えしたんです。そこで穴迫さんから伝えられたのが「BPM90でお願いします。」そして「ミニマルな感覚を持った音楽で」というリクエストをいただいて。だから全トラック基本BPM90なんです。
あ、そうなんですか、なんかもっと幅を感じてました。
COMPUMAそうなんです。いろんなリズムの取り方ができるとも思いますが、基本は90なんです。
もちろんそのときは脚本とお芝居のコンセプトみたいなものを渡されてということですよね。
COMPUMAそれぞれのシーンがどんな雰囲気なのか、それぞれの場面場面で、心象風景みたいなところに影響するようなキーワードとなる言葉をたくさんいただいて。それに合わせて、音がじわじわ変化するところや、突然転換するところなど、そういうポイントポイントも細かくいただくようにしました。それに合わせて音をパズルのように組み合わせて妄想力で楽曲を構築していったという感じですね。演劇のシーンやセリフに合わせて作っていきました。それと、芝居中に音楽の方が先に終わってしまい無音になってしまってはいけないとも思い、どの曲もいただいたシーンごとのイメージする時間より少し長めに作っていったので、どの曲も若干長めになっているんです。
自分は演劇をみてないからかも知れないですけど、「長い」というのは感じなかったですね。むしろ時間感覚が変わっていくというか、「あ、もう終わった」という時間感覚の喪失の方が感想としては近いかもです。
COMPUMAそこは結果的にという感じですかね。制作に関しては、まずは台本があって、芝居のシーンの展開をイメージしながら作っていきました。劇のタイトルが『眺め』だったので、やっぱりどこか俯瞰したような遠近感の「遠」の方のイメージで作り始めたのですが、「眺め」イメージを妄想中に、チャールズ&レイ・イームズの有名な映像作品「パワーズ・オブ・テン」のあの映像がワーっと浮かんできたりして、逆に顕微鏡で見るような超ミクロな眺めもイメージしてきたり、、なんとなく、そんなような音楽にしてみたい。というのがどこか出てきました(笑)。そこから、いろいろな自分の手持ちの機材を引っ張り出して、音を出してみて、台本のイメージに合う音を探して、さらにhacchiさんのスタジオで音や音色を探して、パズルのように試しながら組み合わせて作っていったという感じですね。そうすると段々自ずとパーツのそれぞれの形が見えてきて、組み合わせを変えたり、そこに必要な音色のピースを足したり引いたりというのが基本的な作り方になっていって、そういう意味ではDJミックスにも近い、音素材を集めていく感じで。とにかく音や音色を探して、鳴らして、組み合わせていく作業の連続でした。
制作期間はどいのくらいでしたか?
COMPUMA2021年10月あたまに演劇の開演が決まっていたので、6月末のオファー、7月から準備を始めて、8月、9月の2ヶ月くらいを集中して録音を進めました。ちょうどコロナの影響でDJの現場もあまりない時期でありましたので、そのこともあって制作に集中できたというのはあります。
1枚のアルバムとして出すときに、その後なにか手を加えたりはしているんですか?
COMPUMAもとの劇伴から、大きく飛躍はしてないんですけど、1曲目は今回の演劇のものではなく、行松陽介くん監修のコンピレーション用に作った曲が元になっているんです。この曲を制作したのが演劇の音楽を作る直前だったんですが、この楽曲が出来上がったことで、それによって演劇の音楽制作も勢いづいたという感じで。アルバム1曲目に収録した「Vision (Flowmotion in Dub)」はそれを発展させてアルバム用に新しいヴァージョンにしました。そして、実は今回、この演劇「眺め」の為に作った音楽、これらをアルバムという形で世に出すべきか、すごく悩んだんです。
それはなぜ?
COMPUMA正直、作ってはみたものの、この音楽がどういうものなのか自分でもわからなくて、正直どうしていいかわからなくて。コロナ禍での公演でもあり、東京での公演も無かったので、身近なところでこの演劇を観れた方がほとんどいなかったこともあって、、どうするべきかと悩んでました。その後、何かしらリリースしてみようと思えた時に、あらためて一つのアルバムとして着地させたいと考えた時に、ひとつあったのは、憧れだったダブ・ヴァージョンを、どなたかにお願いして収録したいと思って、そこで、内田直之さんにお声がけさせていただきました。そして、そのダブミックスが戻ってきたときに、それを聴いて、はじめて「ああ、これでやっとアルバムとして着地できるな」と感じて。内田さんのダブ・ヴァージョンがあったことで、アルバムとして本当に着地ができたという感じですね。
行松さんのオファーが助走としてあって、内田さんのダブ・ヴァージョンで完成したという感じなんですね。
COMPUMAそうですね。
わりと引き算の美学というか、おそらく演劇という主役があってという音楽だったというのが要因かもしれませんが、そういう印象をうけました。そのあたり意識した感覚とかありましたか?
COMPUMAそうですね、「眺め」というテーマが、どこかそうさせたのかもしれません。あまり説明しない感じ、少し足りないくらいの感覚、聴き手の想像力に任せる感じ、隙間や余白の部分を残しておくような感覚を目指したと言いますか、確かに、どちらかと言えば、引き算的といえば引き算かなと。
あと思ったのは、音色と楽曲の展開とともに、同じくらいの力でミキシングとかいわゆる音響的な鳴りの部分も重要な作品ですよね。
COMPUMAそこはhacchiさんと細かくトライしてみました。これまでにもhacchiさんとはいくつかの共同作業を経てきているので、おそらく自分の趣向や感覚もわかってくれていて、それもあってより音響も作り込めたというところは大きかったかもしれません。感覚的な音響としても楽しめるようなものを目指したところはあるかもしれません。