はじまり
もともとレコーディング・エンジニアになったきっかけはなんでしょうか?
Taichi自分のトラックを作りはじめて、機材そのものが好きになったというところがあって。それはどっちかというと子供が憧れる機械というか(笑)。機械につまみとかボタンがあって、ケーブルを差し込むところがあって、それを触ると単純に楽しいっていう、そういう感覚からですね。しかもその機材を触っていると、音がどんどん変わっていくという、そのこと自体に魅力を覚えたんですよね。そしてここで(Andy's Studio)でスタッフとして働き出したのもあって、エンジニアというものにとにかく興味を持って。
エンジニアの学校にとかそういうわけではないんですね。
Taichiそう、ここで働いて、来るエンジニアさん、来るエンジニアさん、そのスタイルだったり、どういう風にレコーディングしているかを覗いたり、セッティングを見て覚えていったという感じですかね。あとはバラすのを手伝ったりして、「ああ、これはこうやっているんだ」とか、見て覚えていったという感じですね。
ここで働きはじめたのは?
Taichi俺が22歳のとき、2002年かな。いま20年目ぐらいかな。
アーティスト活動としては〈Revirth〉から『Weekend Control』を出したときくらいですね。
Taichiなるほど、ちょうどそのくらいだ。あの作品のミックスとかはここでやった覚えがあるから。
本格的なエンジニア活動はいつから?
Taichiう~ん。ひとりのエンジニアとしてというのはなくて、とにかく自分の制作物をちゃんとした音で出せるところでミックスなり、音作りをやりたいなというところからスタートして。他のアーティストの作品をエンジニアとしてレコーディングするというのは、本当にその後に付随して出てきたことで。とにかく自分のトラック制作をやるのに、自分の家で完結できないことをやるというのが大きかったんですよね。
エンジニア的な活動をはじめて、アーティストの部分が変化したことってありますか?
Taichiそういう質問はよくされるんだけど、例えばソロで作る場合とバンドで作る場合の違いとか。ただ自分ではまったくその区別を考えてやったことがないんですよね。「バンドだからコレをやりたい」とか、単に最終的に音を出すところへ向かっているだけで、そういう区別は全く考えてないという感じで。気づいたらやっちゃってるという。もちろんエンジニアとして、他のアーティストを録るときは別ですけど、もうちょっと自分が関わる音源自体は、もっとエンジニアとミックスされている感覚かもしれない。
ちなみにそうした他のアーティストとレコーディング・エンジニアをするときに大事にしていることは?
Taichi煮詰まってたりしたら、一緒に煮詰まるとか、そういうことぐらいかな(笑)。一応、「コレはいいんじゃない?」とは言うんだけど、やっぱり結局みんなアーティストで、我が強いからね(笑)。だからコチラはふりかけ程度にパラパラとかけるだけというか。そうやってできた別テイクも実際「いいんじゃない」って話になっても、最終的には「やっぱり最初のテイクも一応、もう1回聴いて決めましょう」ってなったら、大抵最初のテイクになるからね(笑)。
レコーディングのときに、好きなプロセスみたいなことはありますか?
Taichi例えばUndefinedは楽器の録りだけやっているんだけど、そういうときに「次はどうやって録ろうかな」と考えているときがとにかく楽しい。このスタジオでできることってどうしても限らていて、でもそれでも多少なりとも前回とは違うことはやりたいなと思ってレコーディングに臨むという。やっぱりそういうことを考えているときはおもしろいですね。限られた環境でも、違うことだったり、自分の成長もしなくては、というところもあって。
Stimなど、ご自身のレコーディングのときとかはどうなんでしょうか?
Taichiそういえば前にここでStimのレコーディングをやったときの話なんですけど。まずは楽器のマイキングを全てちゃんとやって、みんなスタジオのそれぞれの場所でスタンバイしたんですけど、自分はドラマーなのでどうしてもブースのなかで、ミキサーの前にいることができなくて。ミキサーの前にゴセッキー(後関好宏)がいてサックスを演奏をすることになっていて。なのでそのときはレコーディングのRECボタンをゴッセキーが押すという状態でレコーディングしたんですよ。録音開始と停止のみで、エンジニアが卓の前にいなくても意外にちゃんと綺麗に録れたという(笑)。もちろん各チャンネルのレベルもレコーディングスタートの前にしっかり設定していたので、「たぶん大丈夫だろう」ということだったんですけど。スピーカーも鳴らさず、それぞれのヘッドフォンのモニターだけでやったら意外と思いのほかよく録れたことがあって。例えばメンバーにエンジニアがいるバンド、toeとか(美濃隆章がギタリスト兼エンジニア)、あとはROVO(益子樹がキーボディスト兼エンジニア)みたいに。例えばROVOは益子さんがミキサーのところに座って、エンジニアとして録りながらキーボードも、toeも録りながらギターを弾いたりしてると言うインタビューを読んだ事が有る気がするけど、誰もエンジニアを立てずに、レコーダーを回しているだけっていうレコーディングは自分でも初めての経験だけど。
ドラマー兼エンジニア故のという。
Taichiそうそう(笑)。
ライフスタイルミュージック
ちなみに良い音っていうことで浮かぶアーティストとか音源てなにかありますか?
Taichiう~ん(考え込む)。
もうちょっと、「これおもしろな」と思った音でもいいですけど。
Taichiやっぱりバトルズの音の作り方とか、音色はすごい好きだなって思いますね。あとはヴァンパイア・ウィークエンドの作品とか。意外と俺はああいうサウンドが好きで。生音なんだけど、それだけじゃないという不思議な感覚があって。「このサウンドをライヴでどうするんだろう」というのを考えながら聴くんですよね。それが楽しい(笑)。
日々レコーディング・エンジニアの実験をスタジオの予約が入ってない空き時間にやったりとかしているんですか?
Taichiいまはそこまでじゃないけど、昔は結構やってましたね。内容とかは、マイキングとかそういうものよりも、ProToolsでのミキシング実験というのが比較的多かったかな。
エンジニアのおもしろさってなんですか?
Taichiさっきも言いましたけど、エンジニアがやりたくてここで働いたというよりも、働いてる延長上でやれることがあるというノリだったので(笑)。だからレコーディング・エンジニアも「そこで働いてるならできるでしょ? やってよ」って知り合いに言われてやりはじめたみたいなところが大きいんですよね。それがいまにいたるという。だからちゃんとエンジニアでやっている人たちに対して、何かおこがましいんですよね(笑)。スタートから、そういうスタンスでやってるから。
音楽を作るというライフスタイルの延長線でこうなってしまったという
Taichiそうなってしまった瞬間があるというか。そのあたりは本当に難しいなと。自分が音楽に多少なりとも関わらせてもらっているが故に、なかなか自分が「エンジニアです」とは言えないんですよ。
もっとすごい人がいるっていう。
Taichiなんでもそうだと思いますけど、できるだけ自分からは自分が何者ですって言いたくないんですよね。そういうスタンスで生きてたら、なんかだんだんただの偏屈なじじいになってしまったという。いつかは“ミュージシャンです”って胸を張って生きていきたいんですけど、そんな日は来ないまま死ぬんじゃないかと思ってる(笑)。息子に「パパ仕事いくんでしょ?」って言われたときに、息子が自分の仕事を何だか理解しているかちょっと最近不安に……。
なんというかすごいタイチさんっぽいというか。ご自身のアーティスト活動で出てくるサウンドを考えるとよくわかるような気がします。
Taichiそれをおもしろがってくれるなら、それでいいかなという(笑)。