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talking place 小林"Che Que"宏信インタビュー:〈後編〉 ─新たに継承され続ける、ダブ・エンジニアの系譜─

talking place#09
with Che Que

Connection

秋本さん、さらには〈Black Smoker〉もキーになる出会いって感じですよね。Skillkillsにも繋がってくるし。彼らとの関係性で得るものというのも大きいのでは?

Che Queそうですね。〈Black Smoker〉に関しては、とにかく自分が考えて動くしかないのでそういうところは鍛えられましたね。彼らのステージの多くは、即興でもあるけど、長い付き合いでできた方程式もあって、そこに当てはめてやっていくという感じも強いので。そこで得るものはなにかというとうまく言えないけど、やっぱり瞬発力とか直感力は増しますよね。そこはもちろんDRY&HEAVYやTHE HEAVYMANNERSもそうなんですけど。秋本さんも理論で説明するタイプではなく、練習で身につけるというか、とにかく「良ければいい」という感じなんですよね。で、時期的には、〈Black Smoker〉関連の仕事をわりとやるようになったのは2015年頃かな。その後、DRY&HEAVYはアルバムを出した前後で、カズくんもサポートでキーボードで一時期手伝ってて、その当時に出会ってるんですよね。

あ、そうか、THE HEAVYMANNERS時代は時期がずれてるのか。

Che Queそうですね。その後、Undefindをはじめるということでレコーディングにエンジニアとして誘ってもらって。1stの7インチはここでレコーディングしたんですよね。その少し前にリユニオン後のDRY&HEAVYのアルバム『IN TIME』もここ〈heavysick ZERO〉でレコーディングをしていて、「あのクオリティで録れるなら」ということでカズくんもここでやろうという話になって。もともとはTHE HEAVYMANNERSなんかで試していた環境を、もう少しレコーディング寄りに構築して、チューニングしてという環境ですね。そのあたりでかな、THE HEAVYMANNERSもDRY&HEAVYも完全に止まってしまった時期に、以前にSkillkillsのリリースイベントにDRY&HEAVYを呼んでもらったり、よく対バンした縁もあり、「ライヴPAやってないならやってよ」と声をかけてもらったのがSkillkills。前後しますけど、それがUndefindのレコーディングをしたりする少し前だと思う。そうやってフリーの仕事もだんだん増えてきてという。

SkillkillsやUndefindのライヴでの専属PAの他にはここ数年は、〈Contact〉とかクラブでのPAとかも多いですね。

Che Que〈CONTACT〉でのPAは、加茂くん(東間屋)の紹介で〈CONTACT〉でPAエンジニアを探している日があって、彼の紹介で入ってそこからという感じですね。現在は〈CONTACT〉で開催してますが、DJ QUIETSTORMさんとの〈LIVING ROOM™〉は元々〈UNICE〉でやっていたイベントなんですけど、〈UNIT〉のスタッフから託されて、その後イベントの専属PAみたいになりました。あとは〈SUPER DOMMUNE〉も、去年(2020年)から盛田くんに誘って頂きました。

ここ最近、その活動の場を広げていますが、例えばクラブで音を作るのとライヴPAとって、やることが全く違うじゃないですか。そのへんのさじ加減というかおもしろさってどこにあると思いますか?

Che QueクラブPAの場合はジャンルにもよりますが、聴きやすく、踊りやすい前提の中で日常では味わえない音の体験というイメージで作ります。DJやかけるジャンルによってEQのセッティングもちょっとずつ変えていく事も多々あってそこは面白さではあります。また、専属バンドのライヴPAの時はクラブPAと似たところもありますが、低音があって、とにかく迫力を重視するタイプが多く、その中でも踊れる音でバンドの良さを引き出すイメージでやっています。さらにサウンドシステムの限界ギリギリまでの性能を出す感覚ですね。特にDRY&HEAVY、THE HEAVYMANNERS、Skillkillsなどはギリギリまで求められるのでヴェニューとの攻めぎ合う感じも良いですね。さらにUndefinedではクラブとライブの中間というイメージもあります。

ダブ・エンジニアとして

ちょっと話題を変えて、現代というかその感覚的なところを掘り下げたいんですが、ダブ・エンジニアとしてでも、単純に個人としてでもいいんですが、好きなダブ・アルバムというとなんでしょうか?

Che Queダブ・エンジニアの中でいうと、わりとサイエンティストが好きだったんですけど、当時、秋本さんにジョー・ギブスとエロール・トンプソンの『African Dub Chapter 3』を教えてもらったことがあるんですが、それがいまでは自分にとって特別なアルバムですね。ジャマイカで最初期に……たぶん一番最初ではないにしろ、1970年代にわりと早い時期にスタジオに16チャンネルのミキサーを導入して作り始めた人で、例えばドラムのトラックに関しても、少ないチャンネル数での初期のダブ・ミックスとかよりも、より現代的なサウンドになっているんですね。そうやってダブが作り替えられた頃のサウンドなんですよね。だから現代に近い部分もあるので、すごい参考になる部分も多い。あとはエフェクトだけではなくて、SE、インターフォンの音とかも入っているのが衝撃的でしたね。音の現代的なニュアンスで好きなアルバムですね。それは秋本さんからの影響もあってなんですけど。ジョー・ギブスとエロール・トンプソンのアフリカン・ダブ・シリーズは全般的に好きですね。

ジョー・ギブスとエロールトンプソンは、なんというか音楽的というかアルバムっぽく作ってあるというか。

Che Queなんかそういう感じがしますね。やっぱり順番的にはキング・タビー、リー・ペリー、ジャミー、サイエンティストとかいろいろいて、それはそれぞれすごさがあるんですけど、衝撃的なという意味ではこのアルバムなんですよね。聴いた後に、自分の感覚にこびりつくような衝撃というか。あと、影響というと、クリエイション・レベルの『Starship Africa』のエイドリアン・シャーウッドのダブ・ミックスかな。あれは理屈じゃないけど、好きというアルバムですね。いまだに研究していて、うまく説明もできないけど、すごい魅力を感じるアルバムですね。

なるほど。Undefinedとの作業はどんな感覚でやられてますか?

Che Queとにかく聴いたことのないダブの世界観をふたりが提示してくるのがすごいですね。あとは、なんて言えばいいんだろう、難しいですけど日本人ぽくないというか。ここまで聴いたことない感じを作りだしたのはおもしろいと思ってて。例えばライヴでのエフェクトに関して、基本的にキーボードはカズくんが自分でかける部分もあるので、ドラムメインでかけるんですけど。どちらにしろ、演奏に対して「こうやってミックスしたらおもしろいんじゃないか」というインスピレーションが、いままで自分でやったことのないタイプのものを引き出しくれるというか。とにかくインスピレーションが広がるような音を作ってくるバンドだなという。前にやったRider Shafiqueとの曲「Three ft. Rider Shafique」(ZamZam Sounds)とかは、すごいそういうニュアンスがあって。

Undefinedのふたりとは相談とかはするんですか?

Che Queいや一切しないですね。やっぱりリハスタジオで合わせてみないとわからないということの方が大きいから。想定したものを試して、ダメなら切り替えていくという感じでどんどん変えて試していくという感じの方が多いですね。実は持ち込むエフェクターの量はUndefinedが一番多いですね。たぶん、DRY&HEAVY時よりも多いと思う(笑)。

Sahara去年、飯島さん(Disc Shop Zero)のドネーションコンピ『Bristol x Tokyo』に提供した音源(「Signal (live at Unit Tokyo Dec.11, 2015)」)は、チェケとレコーディングしたライヴ音源なんですけど、特に彼の一番やばいところが出ていると思いますね。作品を作るときは自分達が求めているモノがあるので僕がミキシングするんですが、そうではなくライヴで彼と一緒にやる理由は、そのときのひらめきのおもしろさだったりしますね。曲順もあまりかっちり言わなかったりするくらいなんで(笑)。そのハプニングも楽しみつつ、彼の爆発力みたいなものはあのライヴ音源にはあるのでぜひ聴いて欲しいですね。

Che QueUndefinedでやるときはダブ・ミックス自体、とにかくいままでと違うことをやるのをわりと心がけていて、もちろんキメはあるんだけど、いろいろ試して見ようと思わせるバンドなんですよね。まぁ、基本的には最初「コレ、どうすればいいんだ?」なんですけど(笑)。

location:heavysick ZERO
interview date:2021.03.01