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talking place Dayzeroインタビュー:〈後編〉 ─そのサウンドで自らを海外へと導いたダブステップの気鋭─

talking place#16
with Dayzero

Livity Sound & Zam Zam Sounds

そして海外からは順調にかなりの量をリリースしてるわけじゃないですか。シングル単位でさらに大きい転機となるのが、さっきのブリストルから始まると、やっぱり〈Livity Sound〉の〈Dnuos Ytivil〉から出したのが大きいですかね。

Dayzeroそうですね、〈Livity Sound〉はかなり大きなきっかけですね。〈Livity Sound〉は、普通にSoundCloudかなんかで送って。そしたら「お前〈Zam Zam〉からリリースしているやつだろ、うちからも出そうよ!」って声をかけてもらって。

ちなみに〈Zam Zam〉は?

DayzeroあれはYoungstaのレーベル〈Sentry〉から出したレコードを〈Zam Zam〉のボスがどこかの動画でかけてくれていて。そこからメッセージを送って、自分の曲を送るようになってという感じですね。

おお、つながっていく。そしてYoungstaもメールで送った1人って感じですか?

DayzeroそれがYoungstaは向こうから連絡がきて。DJ Hatchaっているじゃないですか? 彼に送った曲をどこか現場でかけているのをきいて「あの曲、オレにもくれないか?」って言われたのがたしか最初ですね。彼なんかいろいろなところから曲が送られてくると思うんですけど、そうやって連絡が来るパターンもありますね。

でもすごいですよね。ちゃんとシーンを代表するベテラン、注目されているレーベルからリリースされるという。YoungstaもHatchaもいわばダブステップのオリジネイターなわけですし。

Dayzero自分なりにできるだけそうなるように色々考えて送ってたところ、何かしらで結びついていってというのはあって。もちろんそうやって結びつかなかったこともあるんですけど。実現した作品が皆さんのところに届いているということになります。

コンスタントにずっとリリースを続けるということは、曲をずっと作り続けているわけで、その秘訣みたいなのって、自分の中にあったりするんですか。

Dayzeroうーん、人によってはスタジオでセッションして作る人とかもいると思うんですけど、僕は結構アイディアが先っていうか「こういう曲あったらおもろいんじゃないか?」みたいなのを考えて、いろいろ決めてから曲を作り出すんですね。そのほうがなんか脳がフレッシュな状態で最後までいけるっていうのがあって。ある程度、自分を俯瞰で見ることで、曲を作るプロセスに対して自問自答してアップデートしていくことができて。それが曲を作り続ける上でストレスなく快適に作っていける秘訣なんじゃないかなと思います。

ちなみに、どういうところでアイディアって思いつくことが多いですか。例えば自分で現場でプレイしているときにとか、もっと全然音楽に関係ない日常生活でポンと出てくるとか。

Dayzeroいま、昼間は電気関係の配線の仕事をしているんですけど、そのときに思いつくとかもありますよ。もちろん音楽の現場も。どっちもありますね。でも、とにかくいつでもなにかから音楽に対して良いフィードバックを得ようとする意識を常に持っているかもしれないですよ。例えば、人のミックス聴いているときとかでも「このサウンドのフィーリングで、BPM140でダブステップをやれば……」みたいなこととか。自分のライヴでも「思ったよりこのパターンおもろいからもっと追究しよう」とか。そういうラフなスケッチみたいなアイデアを貯めていって、そのなかで頭に残っているものとかを組み合わせて考えるとか。「前回作った曲のこのパターンを、もうちょいこのパターンに寄せてやったらもっと良い曲が作れるんじゃないか」とか、自分の過去の曲からアイディアが出てくることもありますね。

曲作りの作業はどうですか? リズムから打ち込むとか、ベース・フレーズからとか、ヒップホップっぽく、ちょっとしたサンプル・ループから広げていくとかいろいろな作り方のパターンがあると思いますが。

Dayzeroやっぱりリズムのパターンから作って、そこに対してこういうベースにしたらハマるんじゃないかみたいなアイデアからくることが多いですね。端的に言ってなにか面白いパターンを作るところからはじめるという。ダブステップにはまったのも、やっぱり当時のハーフステップの変な感覚にハマって。ちょっと溜めがあるんだけどスピード感があるとか。四つ打ちなんだけど切るとこがおかしくて、ハウスとかテクノと違ったグルーヴが出るとか。そういうグルーヴとかパターンを先に決めて作ることが多いです。おもろいグルーヴの曲が作りたいというのはずっと漠然とありますね。

曲作りで重要視しているみたいなとこって、何かあったりするんですか。

Dayzero変な音というか、なんかどうやって作ったかわからないような音とか「この音、入ってたらDayzeroっぽいな」みたいなのとかを1曲聴いてても、どっかで出てくるようにするというのはずっと気をつけてますね。

ベース・ミュージックとかダブステップの作ることの難しさってどんなとこにあると思いますか?

Dayzero作る上で難しいのはベース、ドラム・パターンの関わりというか、ハーフのグルーヴがあって、そこに対するベースのアプローチとか、多分最初自分のルールができていくまでは難しいのかなっていう風に思います。

ブリストルへ

去年のブリストルというかUKツアーはどうでしたか?

Dayzeroブリストルは、やっぱり思い切り影響を大きく受けた街でもあるので感慨深かったですね。もちろんDJ以外のところに関しても興味はあったんですが、多大な影響を受けて帰ってきましたね。本当になんか食らって帰ってきたという、実際行ってみたら「この街でスターになったやつは、そりゃアーティストとしてやっぱりいいわ」と。

具体的に衝撃を受けたところは?

Dayzeroブリストルとロンドンに行ったんですけど、ブリストルは本当に小さい街だけど日本でも名前が知られているるようなDJとかそのへんにたくさんいて、コミュニティというか。例えば夜、ご飯食べてクラブ行きます、みたいになったときに、もうその夕飯の場所とかで違うヴェニューでプレイするDJとか、音楽に携わってる人たちに日常的に会うんですよね。あとはそこにいる人たちがDJとかシーンに近い人じゃなくても、みんなアンダーグラウンドな音楽に詳しいとか、そういう印象で。印象的なのは、高校生ぐらいの子がオープンスペースみたいなとこでちょっとDJしてて、それがすでに変なオリジナルなスタイルで、聴いたこともないグライムとガラージのダブ・プレイトみたいなのかけてて。

おお。

Dayzeroそれで「えー」とか思ってたら、つるんでる友だち3人ぐらいで「これ、誰々の新しいやつで!」みたいなことを言いながらめっちゃ楽しそうにしゃべってて。これが高校生の遊びなら音楽的なレベルが高くなるのもわかるなという。街中に音楽が当たり前のようにあって、文化として根付いてるレベルがなんか明らか違う。生活に密着しているというか。音楽を元にしたコミュニティー感がやっぱり本当にすごいとおもいましたね。

DJの現場はどうでしたか?

Dayzeroまず楽しかったのはもちろんですし、〈Livity Sound〉のイベントだったんですけど。〈Livity Sound〉のイベントだってことをそんなに別に知らない人もいて。逆に〈Livity Sound〉のイベントだっていうことだけを知っていて誰が出るかとか、あんまりどっちでもいいみたいな人もたぶんいて。とにかく音楽が普通に生活の中にある感じがイベントの中で感じましたね。あとは音楽とは直接関係ないんですけど、イベント自体は3時までで。だけど、3時でもイギリスだとバスがあるんで普通にサクッと終わって帰っていく。遊びたいやつは、朝までやっているところに行くという。その感じが良くて。それはクラブ・ミュージックが生活に根付く、無理なく遊べる要因のひとつでもあるかなって。

UKに行って音楽に対する姿勢とか、アイディアで変わった部分とかあります?

Dayzero「あの体験があったから変えよう」とかはそんなになかったんですけど。まずひとつは、ずっと空想というか、とにかくブリストルの音楽みたいなものを自分で作りたいと思ってやってきたことが、その街にもしっかりと届いてたんだなと感じられたことがすごくうれしかったですね。ああいうコミニティがあるからこそ行き着けた音楽シーンというのが、実感でわかったんでなおさらでしたね。あとはDJでかける1曲とか、曲を作るときの1音とか細かいところをこれまでも大切にしてたつもりではあったんですけど、もっと大事にしようと思って。日本で、ブリストルとは違う文化で生きてきて、もっとブリストルのようにアンダーグラウンドな音楽を当たり前のものにするためには、もっとさらに細かく一個一個に焦点あてていかないといけないなとすごい思うようになりました。

ちなみにちょっと話は前後しますが、拠点は岡山から東京に移したのって、いつ頃なんですか?

Dayzero3年ぐらい前ですね。

ここまでのキャリアを考えるとアルバムを作ってみようみたいなことは、考えてはないんですか?

Dayzeroアルバム、実は考えてますね。なんならずっと昔から出したくて。ただ、ずっと「曲を作って曲数を揃えて、出したいときに出す」というのではなくて、キャリアを通じてのタイミングというか、それを考えていて。いまダブステップじゃない曲も結構出せていると思うんですが、そういう自分のサウンドの変化も含めて、そのキャリアの流れのなかでアルバムとして作品を出したいなと。そういう活動をしてきたと思っているので、だから、そろそろアルバムを出しても説得力があるものを作れそうだなという状態には自分ではなっていますね。近いうちにアルバムを出すということは考えてます。

じゃあ、具体的にマテリアルもあるという。

Dayzeroもうだいぶできてますね。この前出したシングル「Saiun」も一応アルバムからの先行シングルって謳い文句でリリースしました。

コンセプトとかを練っているような状態ですか?

Dayzeroもう曲は結構できていて直してたり。むしろ、どのタイミングで出そうかなとか、どうやって発表するかなというのを考えるフェーズですね。内容自体はもうほとんどできているとも言えるし。だからアルバムをリリースすることは「これからやりたいこと」というよりも、もっと自分のなかでは実行するためにスケジューリングされてることというか。それ以降で、今後やりたいことがあるとしたら、新しいことをやっててもちゃんと「Dayzeroの作品」として出せる、というところまでやっていきたいなと思ってます。要はダブステップ以外というか、例えばわかりやすいところだと劇伴とかでも自分が表現できる、むしろ表現できますよって言えるぐらいの作品を作らないと説得力がないだろうなとも思っていて。あとはもっと実機の機材だけで作った作品とか他のチャレンジもしつつ、そのなかで自分の音を出すということとか。そういうトピックスをいろいろ挑戦してみたいなと。音だけじゃなくても映像とかもやってみたいですね。

転機

ちなみに座右の名機みたいなのってありますか?

DayzeroAbleton Liveを使ってるんですが、そこにプラグインで使っているREAKTORっていうソフトウェア・シンセがあって。簡単にいうと、パッチでいろいろなモジュールをつないでプログラミングみたいにして、シンセとかエフェクターとかを作れるソフトで。それぞれいろんな人が作ったモジュールの組み合わせがネットに無数にアップロードされていて。そこから変なエフェクターとかをピックして取り込んで使うことができるんですけど。僕の曲を聴いて、どうやって作ってるんだろうみたいな音が入ってたとしたら、割とそうやって作ってることが多いですね。あとハードだと、ギター用のペダル式のマルチ・エフェクター。

ディスクの上で比較的使いそうな場所にそれがあって気になってました。

Dayzeroギターのエフェクターって実はけっこうダブで使う人って多いと思うんですけど。BOSSのマルチで、ちゃんと一つ一つのエフェクターとかアンプ・シュミレーターのクオリティもそんなに悪くなくて。ダブワイズとかは結構これでやったりしますね。あとは結構安いシンセで作った音とか、アイディア的にiPhoneで録った音とかでも、このアンプ・シミュレーターとかコンプとかを通しちゃえば結構使えますね。多分、ザ・バグとか、ああいう感じのサウンドを作ってる人はみんな使ってると思います。

歪んだ感じの音とか。

Dayzero圧縮されて、例えばメロディーの音だけじゃなくて、変な「シュワー」と空間を埋めるようなノイズが入ってる人は割と使ってるんじゃないですかね。これじゃないかもしれないけど、こういうエフェクターをかまして録音してると思います。僕も「ああいう音って何使ってんだろう?」とずっと思ってたら、誰かのスタジオに、これのヴァージョン違いが写り込んでて。「ああ、普通にギターのマルチなんだ」と思って。このシリーズ自体はギターのマルチ・エフェクターとしては定番ですよね。

アーティストの人ってそれぞれ目標とかも気にしない人もいれば、もっと明確に目標を立てて積み重ねていくっていう方がいると思うんですが、完全に後者だなっていうのがわかるインタヴューでした。

Dayzeroそういえば、さっきの〈ZAM ZAM〉からのリリースとか、ブリストルの話とかにも通じるところなんですけど。ひとつ転機になったのが、クロアチアのOutlookに出たときのことで。やっぱり行く時はイケイケの感じで行くんですけど、向こうに実際に行ってプレイしたあとに思ったのが、結局、俺のやってることって所詮まだまだここに出ている人たちの真似なんだなと。もちろん自分としてはその時の自分で一番良いと思えるようなプレイもできたし、新しい曲もいっぱい持って行ったし、ちゃんとその場は盛り上がったと思うんですよ。だけど実際体験してみて思ったのは「このフェスは俺が出ていなくても誰も失望することなく普通にフェスが成立する」ということで。それはなんでかというと、自分がやって盛り上がった瞬間って、イギリスのダブステップのアーティストが盛り上げた瞬間とあんまり変わらないことに気付いて。

それぞれのジャンルの約束事というか。

Dayzero会場を盛り上げるやり方とかそのフレーバーが変わらないというか。それに気付いた途端に「俺はこれがやりたくて音楽やってるのかな?」みたいな自問自答になって。もちろんダブステップというジャンルの受け皿があったからこそ、Dayzeroという存在が知られたとは思うんですけど。だけどそこから先に、Dayzeroという存在で、もっと知られるようにならないとあんまり面白くないな、そういう作品を作りたいなって思うようになって。

ちょっと目線が変わったというか。

Dayzeroでもそこで単純にテクノとかドラムン作りますというのは自分的にはなんかリアルじゃないっていうか。サウンド的にも結局説得力が出ないだろうなと思って。だから、いまやっていることを土台に、さらにちょっとおもろい変なダブステップを作る存在になっていくことから始めようと思って。それで作った曲が〈Zam Zam〉に採用された曲なんですよ。さらにもう1枚〈Zam Zam〉からは同じ路線で出せて。あの路線で勘をつかんだというか、さらにその先で自分がダブステップじゃない作品を作っても説得力あるものが出せるだろうと思って作ったのが〈Livity Sound〉から出た曲なんですよ。だから、その流れは自分的にもすごくうれしくて。ダブステップじゃないフィールドに行くにあたって、その説得力として、自分の音となるような変なサウンドというのがブリッジになれば、ジャンルはあんま関係なくなるという、それが実際できたというか。そこにたどり着くためのひとつのきっかけとなったのがOutlookを体験して気付いたことから、〈Zam Zam〉からのリリースというのが大きいかもしれません。

それこそ自分のやるべきことを自分で考えて重ねていったら、ちゃんと評価も来たという。転機ですね。

Dayzeroそうですね。〈Zam Zam〉は出した歴代のアーティストのことをちゃんとサポートするっていうのがすごい昔からやってる人たちだったんで、その恩恵もあると思うし。とにかく〈Zam Zam〉は本当に自分にとって大きな存在ですね。レーベルであり、優しい友人でありって感じですね。

location:Dayzero Studio
interview date:2025.03.08