newdubhall is a sound label since 2017. experimental dub music from the far east.

talking place Undefined インタビュー pt.1:〈後編〉 ─定義なきダブのスタイルへ─

talking place#11
with Undefined pt.1

Undefined

当時は、ぼんやりとエレクトロニック・ダブをソロでやるという感じ?

Saharaソロで考えていました。その3年間はまったくレゲエの現場やクラブには行かずに過ごしていて。やっぱり自分がなにもできていないのに秋本さんを筆頭に当時の面々に合わせられる顔がないなと思って、で、ダブをやろうと決意したタイミングでたまたま河内さんが連絡をくれて。「いまレゲレーション(インディペンダンス)というバンドをやってるんだけど、青山CAYでライブやるから遊びにおいでよ」って誘ってくれて。そのライヴで、Undefinedを一緒にやることになるOhkumaくんにひさびさに出会うんですよ。それで「この手があったか!」と思って。

ソロではなく。

Saharaそう、バンドという方法論は考えてなかったんですけど、Ohkumaくんと再会した時に「この手がある」と思って。

Ohkumaさんとはいつ知り合ったんですか?

Sahara最初はSoul Dimensionのライヴですね。2007年頃に彼らは1stアルバムを出しているのでその時期。The Heavymannersをやりつつ、Dubwiserもやっていて、たしか哲さんか河内さんが「ドラムがおもしろいレゲエのバンドがいるんだよね」という話をしてて。それで観に行ってみようと。なんとなく当時のシーンはダブのバンドをやっていても、先輩ばっかりで同年代があまりいなくて、それも気になったポイントで。初期のライヴは、スラロビはもちろんドラヘビとか、カルチヴェーターが好きなんだろうなというのが伝わってくるような編成 / スタイルだった記憶があります。ライヴを観たあとに話しかけて、その後、1回か2回は飲みにいったことがあったんですよね。The Heavymannersのライブも観に来てくれて。当時は単純にOhkumaくんがドラムを叩いてる姿がなんかかっこいいなという印象で。

その後、ダブをやろうと決心したときにOhkumaさんと偶然あって思いつくという。

Saharaそうですね。それでOhkumaくんは当時はまだSoul Dimensionの活動もしてて、翌週ぐらいにライヴを観に行って、そのときに「一緒にバンドをやらない?」って声をかけたんですよ。それが2013年ぐらいかな。

Undefinedははじめからベースレスなんですか?

Sahara2013年にOhkumaくんを誘った当初は、ベースも入れたトリオ編成というのが最初ありました。だから何人か知り合いのベーシストの方たちとスタジオでセッションしたんですけど、なかなかうまくいかなくて。そのベーシストの人たちが悪いというわけではなく、どうしても自分の場合は秋本さんとの活動が長かったので「レゲエをやるにはこういうベース」という確固たるスタイルのイメージが頭のなかにあって。だから「この人だ」ってことになかなかならなくて。で、口に出したことはないんですけど、そういう自分の気持ちをOhkumaくんはわかったんでしょうね。すでにふたりでスタジオで練習をしてたので「ふたりでやってみよう」ってOhkuma君が背中を押してくれて。それが決まってから、最初のライヴまでは早かったですね。

Undefinedという名前は?

Saharaいままでにない、定義されていないダブの表現を目指してたというのがあるので名前としていいなと。それでOhkumaくんに提案しました。

レーベル名の方は?

Sahara〈Newdubhall〉に関しては、もともとは『日本フリージャズ史』に出てくる「ニュー・ジャズ・ホール」の話が元になっていて。新宿ピットイン2階の楽器倉庫を改造して、当時演奏をしたくても前衛的な表現によって演奏できる場所が少なかったアーティストが中心になって作られたフリージャズのためのスペースで、その話に非常に感銘を受けたんですね。自分たちもそういう場所を作って表現を追求したいという思いがあって。レーベル名でありながら、自分たちの居場所というか。

Undefinedの曲作りってどどこからはじまるんですか?

Sahara最初の骨格はスタジオでのふたりのセッションですね。デモを作ったこともあるんですがうまくいったためしがないんですよね(笑)リハーサルでクリックの同期はさせず自分はシンセベースとオルガン、ピアノなどベーシックな楽器を弾いて、Ohkumaくんはドラムを叩いて。そこで何か感じるものがあったらレコーダーをスタートさせて、それを録って。そこからDAWで広げていってという。で、全体の構成がある程度決まってきたらTaichiくんにレコーディングをしてもらって、仕上げていくという感じですね。ただ、スタジオで録った素材は、わりとそのまま使うこともあるし、サンプリング・ソースぐらいに割り切ってさらに作り込むとこともあって。

基本的にはサハラさんがまとめて、Ohkumaさんに聴かせてという感じなんですね? 一緒に画面の前に座って作業をするという感じはない?

Saharaレコーディング後はふたりで作業することはないですね。ただOhkumaくんの反応はあたりまえですが一番大事にしています。自分がある程度完パケしたものを聴いてもらって、OKなら今度はミキシングをお願いしているe-muraさんに投げるという工程ですね。e-muraさんはドラムの音作りをはじめ、必要な音処理をしてくれるという感じで。

Defined Riddim

さてついにフル・アルバムが出るわけですが。今回、2019年の7インチ「Three」に続いてアメリカの〈ZamZam Sounds〉からですよね。

Sahara自分たちが、Undefinedとしてはじめて7インチを出した頃、当時はあまりいまのダブシーンってよく知らなくて、それで調べてて知ったのが〈ZamZam Sounds〉で。リリースしているサウンドがやっぱりおもしろいから、それなら自分たちの7インチも聴いてもらいたいと思って、Facebookでコンタクトして、送って、そこから関係がスタートしました。そうしたらすぐに彼らがやっているラジオやゲストミックスで、何度もその7インチをかけてくれたんですよ。SNSにも投稿してくれたり。リリースした当時は海外からのオーダーなんて5枚とかだったのが、〈ZamZam Sounds〉のおかげで海外から一気に桁が変わるかたちでオーダーがまとまってくるようになってすぐに完売してしまったんです。それをとってくれたのがYoung Echoのメンバーが関わっているRewind Forwardだったりといろいろと広がっていくんですよね。 その後も連絡を取り合って、「Three」が出来たときに送ってみたら「出そう」ということになって。ちょうど返事をもらったのはレーベルの流通周りをやってくれているルーシーとアメリカにいる時でしたね。とても嬉しかったのでよく覚えています。

そしてアルバムもですね。

Saharaやっぱり僕らって、ダブステップでもニュールーツでもなくて王道なレゲエでもない、カテゴリーしにくい音だと思うんですよ。それは〈ZamZam Sounds〉のようにアブストラクトなリリースのラインナップのなかでもやはり特殊で。レーベル側は気に入ってくれてるんだけど、「Three」をリリースするとき、そのリリースがザムザムのファンに受け入れられるのかどうか不安はあったみたいなんです。ただ結果としてはすごく反響もあって、それでレーベルも確信を持ってくれたみたいで、「次はアルバムを出そう」っていう話をもらって。それから制作を進めていく中で、Tikiman、Rider Shafique、国内からはRas Dasherさん計3人のシンガーに参加してもらうことになりました。本当は4月(2021年)に出る予定だったんですけど、コロナの関係でリリースが後ろ倒しになってしまって。ちなみに、Dasherさんのヴォーカル曲がLPに付随する7インチの形で収録されるんですけど、あの曲をそうやってリリースしようって言ってくれたのは〈ZamZam Sounds〉側なんですよ。いろいろある音源のなかから。

Ras Dasherさんにお願いしたのは?

Sahara ダッシャーさんは信念を持って音楽に接していて、それ故に多くの人と連るむというより孤高のアーティストという印象があって、一アーティストとしてその姿勢にとても共鳴してましたし尊敬していました。僕らの曲自体のレコーディングは2016年頃なので自分たちの曲では初期のもので今よりもよりストレートな曲だと思うんです。それもあってかドラムパターンだったり曲の雰囲気からカルチからの影響を見つけることができてダッシャーさんがボーカルを乗せてくれたらと思って、自分なりに思いを伝えてお願いしたらあのヴォーカルが送られてきてという感じです。ダッシャーさんも意図を汲み取ってくれたと思っています。歌入れから今回のリリースまで2年ほど掛かってしまったんですけど、去年の終わりにやっとアルバムを納品したことを電話で報告させていただいて、まさか今年になってダッシャーさんが亡くなるなんて。そんなこと思ってもみなかったです。

まずはアルバムがやっとリリースされるということですけど、今後、自分たちのレ―ベルでやってみたいことはありますか?

Sahara結局、まだリリースが少ない(笑)。もちろん気になるアーティストには声をかけてはいて、ただタイミングもあって中々実現しないのもあるんですがちょこちょこではあるけど、Babe Rootsのように、納得のいったものを出していきたいと思ってますね。まずはやっぱりアナログ・レコードを、あとはカセットでもジンでもいいですけど、形になるもの、残るものを出していきたいですね。それとコロナが収束したら、まずはSoup、ドゥースラー、ヘビー・シック・ゼロとか身近な場所、自分の原点のような場所でパンパンにお客さんが入るようなイベント企画して思いっきりライブしたいですね。

location:落合Soup
interview date:2021.07.19