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talking place eastaudio soundsystem Tocciインタビュー:〈後編〉 シーンが生まれる場所へ──サウンドシステム・カルチャー

talking place#06
with Tocci

サウンドシステム・カルチャー

じゃあ、トッチーさん自身、遊びも含めてサウンドシステム・カルチャー自体にはずっと触れてたと思うんですけど、いわゆるエンジニアリングをどこかで学んだとか、PA会社にいたとかそういうことではないんですね。

Tocci全然ないっすね。最強の素人目指してます(笑)。でもとにかくスピーカーは電気と物理がわからないと作れない。そこに関してはうちの開発もやっているSushi Audioのコトブキがエキスパートなので、彼がいるというのは大きい。自分はエンジニアではなくて、どちらかと言うと漠然としたアイディアをだして、それを形にしてもらうのがコトブキでという関係。

サウンドシステムといわゆるライヴのPA的な音作りの違いみたいなものってなんですかね。

Tocciモノラルのスピーカーをスタックして音を鳴らすなんて基本、いわゆるPAからしたら「なんでステレオじゃないんだ」ってありえないと思うんですよ。でもサウンドシステムの場合は、モノラルのスピーカーでも低音がガンガン出てて、来ている人が楽しんでればそれでいいんじゃんっていう。耳がキンキンになるぐらいのハイが出てても、それが好きな人が千人入れば正解になっちゃう。ユーザー側が気持ちいいラインを決めているというか、お客さんが気持ちよいもの求めて、お客さん寄りの発想で音響チームを作るって言う。自分が素人側でいて、こういうことをやっている理由がそこにあるのかなという。お客さんとしてジャッジするのと、音響屋さんが「波形みたらこれが正しい、こういうものだから」って決めるのはやっぱり違って。もちろんそういったPAさん的な技術や価値観を否定するわけではなくて、ことダンス・ミュージックに関しては違った次元の話でやってもいいんじゃないかなと。

サウンドシステムの価値観のおもしろさっていうことでいうと、それこそ昨年末のTokyo Dub Attackも3つのサウンドシステムが、それぞれの価値観のサウンドを鳴らしていて、どれもおもしろかったです。どれもおもしろい、でも全部違うっていう。

Tocci音響的なところでいうと、いまは位相感というのがひとつテーマになっているところがあって。たとえばうちのシステムだと位相感を大事にしつつ、サウンドシステムらしい鳴りも欲しいという感じ。最高音響はアナログのプロセッシングで位相感よりもパワー感重視かな。でもそれはサウンドシステム・カルチャーの基本の考え方だと思う。Scorcher Hi-Fiはレゲエの魂の鳴りっていうか、なんというかレゲエってこれだよなっていう。Mighty Crownのシステムともまた違うし。三者三様の鳴らし方で、セレクターも三者三様でそれがすげー良かったですよね。同じことやる人が誰もいないっていう。そういうところも含めてサウンドシステム・カルチャーっていう感じのイベントでしたね。

上にあげたRAの鼎談でもサブ・ウーファーがさらに2つの帯域にわかれて、そのスピーカーをどうならすかというところで、また音楽表現も変わってきているという話が印象的だったんですけど。

Tocciそういえば、この前、たまたまYahman君からジャングルに関して質問されて。今彼が作っている『Jungle Document』に掲載されたんですけど。ジャングルもサウンドシステム・カルチャーから生まれた音楽じゃないですか? サウンド的にはパーカッシヴの局地というか。スピーカーが打楽器のように鳴ってくれないとおもしろくないというジャンル。それはただ綺麗に音が鳴ってもおもしろくなくて、本当に太鼓が鳴っているようにスピーカーが鳴ってくれていることによって、フロアをよりトランシーにして、来ている人がのめり込みやすくする音楽だと思うんですよ。テクノもわりとそうですけど。あとはいわゆるベース・ミュージックは、キックに対して、さらにより低い位置にサブ・ベースを入れてくるようなサウンドを作る。ひとつのサブ・ウーファーのなかでそれを鳴らしてもいいんだけど、さらになにかできるだろうということを求めはじめる。そうやってサブ・ウーファーをさらに分けるということを明確に打ち出した一人がVoidを作ったロッチ(Rog Mogale)という人なんです。Voidをはじめる前に彼が作っていたスピーカーでも、キック・ベースの箱をすでに作ったりしていて。Voidのいまのウーファーも。それひとつでもキック帯域もカヴァーして出すことは可能なんだけど、もっと良いものを求めていくと、さらにウーファーのなかで低い帯域のものと、高い帯域のものにも分けるということをやるんですよ。


逆に言えば、そこに注視して作ることで、新たな音楽が生まれている感じはありますよね。

Tocciそう。いたちごっこというかリンクしていくのはあると思う。作り手と鳴らし手がリンクしているのがサウンドシステム・カルチャー。そこがいわゆるPAと違うところだと思う。

ジャマイカのレゲエの進化におけるサウンドシステムとの共犯関係はいまも遺伝子のように続いている感じですよね。

Tocciあとはいまの場合、お店なんかもちゃんとしたシステムを入れても、その機材の潜在能力を十分に生かして鳴らせないところも多くて。だから防音のところから見てあげないといけないところがあったり。うちには防音・吸音もスペシャリストがいて、そういう人たちをアサインしてチーム編成しているという感じですね。いままで、というかいまもそうですけど、通常の音響設計で防音というとだいたい100Hzくらしまでしか見てないんですよ。100Hz以下は見ていないというか見れない。100Hzまでの周波数特性で「ここは切れていて、ここはちゃんと音が抑えられてますよ」という尺度の防音では、クラブ・ミュージックを再生する上では到底カヴァーできない。そういう領域に入ってきているんですよね。その基準で防音をしたら、ナイト・クラブで出る音は音漏れしまくりになるのは当たり前なんですよね。100Hzより下の方も出すサウンドがあると、今後はそこも抑えるための技術が必要になってくるんですよね。音楽の作り手、音楽を鳴らす人に加えて、建物的に音を抑える人もアサインしなくちゃいけないんですよね。それらが同時進化していくと良い場所になる。お客さんは自ずとそこでおもしろいことが起こっていればついてくるというか。そこに速やかに誘導されて、良い環境で楽しめることができるようになっていくという。

クラブ・カルチャーということを考えたときに、そこまで考える、もしくは考えられる限りそこまでやることによっていまは本領発揮できるというか。

Tocciやっぱりクラブ・ミュージックって、よりエクストリームな音楽じゃないですか? 例えば低音は、デジタルでどこまでもサイン波でだせちゃうし。クラブ・ミュージックの現場、すごくスペックの高いモノが求められる世界になってきているんじゃないですかね。

なかったノウハウを作らなきゃいけない。

Tocciそうですね。どこにも優れた方はいるので、例えば防音にしても、その知識や技術をコチラが欲しいところに転用してもらうという感じで。「40Hzとか30Hzの部分の防音・吸音も見れますよ」という方を見つけて、一緒にやろうと声をかけて。でもなかなか通常だとそういう仕様はないので、面白がってやってくれますけどね。

トッチーさんは、エンジニアではないけど、エンジニア的な視点もスペシャリストと一緒にいてもっていて、そしてお客さんからの視点があって。

Tocciそういう人ですよ。人と人を結びつけて、チームを作って、マネージャーみたいな人ですよ。

世界の音響

eastaudio soundsystemの構成ってフルでいまどのくらいあるんですか?

Tocci21インチのシングルが6本、その上に15インチが3本入ったやつが2箱、上にVoidの15インチのやつが3箱、所有は4箱あるんだけど、組むときは3箱。それでフルですね。これ以上大きいのを作ってしまっても意味がないんですよね。ちゃんとした大きなPAが必要なら、うちの場合Voidのシステムを出せば良いので。それで1万人ぐらいまでならいけちゃう。でも、だからといってサウンドシステムを辞めるとうちがやろうとしていることが全部崩れちゃう感じがあるので。年々そこが大事になっているなと、他の人がやれないことをやっていきたいですからね。eastaduioの場合、サウンドシステムが看板みたいになってますね。

いわゆるフェスやライヴのPA方面のお仕事というのは、どういう感覚でやってらっしゃるんですか?

TocciそちらそちらでメインでやっているPAエンジニアさんがいるんですよ。うちの所属ではなく老舗のPA会社のエンジニアさん。大御所、それこそ八代亜紀から「MCハマ―のときはスピーカー積んでたよ!」みたいな人。昔、m-floのときにやってもらっていた人でもあるんですけど。逆にそこまでなんでもできる人は、耳とかもすごくて、俺らがわからない部分までわかっていて。だからそういう人を俺らが目指す現場に連れていって、理解してもらい、その技術をこっちで使ってもらうという感覚ですね。一緒にイビサとかUKに連れていって、「この音を出したい」というのを直に聴いてもらって、「ああ、こういうことやりたんだ」って現場を体験してもらえば再現できてしまう人なんですよ。うちの会社に属している人ではないんですが、研修旅行でヨーロッパに連れていって。ブリストルも一緒に行きましたよ。

ここ頻繁にヨーロッパの現地の音にふれられていると思うんですが、最近で気になることってありましたか?

Tocci〈Outlook〉はちょっとDIYスピーカーが減ってるかなっていうのがあるけど、UK勢に代わって、地元のクロアチア勢が出ていい音で出していて、あとはほとんどVoid系のチームという感じの構成で。クラブとかはやっぱりハンガリーとか東欧系、ロシアもそうですけどおもしろいですね。ジョージアのトビリシのクラブとか。東南アジアも結構動員あるっぽいんでおもしろそうですね。あとモンゴルもVoidのシステムのチューニングに行ってましたね。

日本国内でクラブの音響に関わるときはやはり防音から関わるというのが基本なんですか?

Tocciそうですね。これはイビサに行って痛感したことなんですよ。イビサってクラブをビルの中に作るじゃなくて、クラブ用にビルを建てるじゃないですか? ああいう感じで、音響機材の位置からいちから設計で決められるというところには、やっぱり音はかなわないですよね。ブースの位置を決めて、その後で内装を決めるのが基本だと思うので。日本だとあまりないですけど、なんかやるんだったらゼロから音のことを気にしながら、壁の厚さ、内装の素材とかも含めて決めた方がいいですよね。日本だと、だいたい図面がくると音のこと考えて設計せずにDJブースとスピーカーの位置が決まってて、できあがってみたら「低音が抜けちゃうんですよね」って当たり前ですよね。その前からやらないと。それを痛感したのはドイツはミュンヘンのBlitzっていうクラブ。去年行ったんですけどコンクリートと鉄と木しかない空間で、機能美というかインテリアとしてもかっこいいんですよね。いまだと造りとしては世界一だと思いますね。あとすごいのはウィーンにあるSubっていうクラブ。DJブースの後ろが全部ウーファー。しかもウーファーの箱がスタックしてあるんじゃなくて、コンクリートの壁がウーファーのサイズにくりぬいてあって、そこにドライバーを入れて、特注のアンプ・モジュールが積んである。しかも計算上、ベースが対面の壁にぶつかって戻ってきても消えない距離感で作ってあるというすごい空間。そこを観に行きたくて去年行ってきました。ウィーンの100キロ郊外にあって、日本人は誰も行ってないんじゃないかな。住宅地にあるんですけど、近くに行っても無音で。ドアを空けるとむちゃくちゃいい音でベースが出てて。理論上は7ヘルツまで出るって書いてあったな。本当にすごいところで。

やばいですね…… eastaudioの野望はありますか?

Tocciうちの会社でやれることをすべてを詰め込んだクラブというのは実はないんですよ。さっき言った建物の問題も含めて、なかなか制約も多いんですよね。だからいちから防音のチーム、音響設計のチームの力をフルに活用できるお店を作ってみたいですね。ミュンヘンのBLITZみたいに音に関して完璧に作りましたというようなナイトクラブを東京でやってみたいですね。

でも、いわゆるライヴPA的なものと、ピュア・オーディオ系、そしてサウンドシステムと新しい価値観がやっと日本にも根付いた感じはありますよね。

Tocciそう、みんなクラブとかで「スピーカー」って言ってたのが「サウンドシステム」って言うようになったでしょう? それはすごいですよね。

location:渋谷 Dimension
interview date:2019.03.26