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talking place 浅沼 優子インタビュー:〈後編〉 結び、広げる、音楽文化の翻訳者

talking place#08
with Yuko Asanuma

Commitment

例えば、日本のアーティストを紹介されてますけど、こう海外でうけるトピックみたいなのってあるんでしょうか? 「日本の」と付けなくてたぶんそこと関係なく、単純に世界的にユニークなことやっている人たちばかりですけど。

Yuko Asanuma日本語の良い言葉が出てこない。。えっと、英語で言うと「Commitment」ですね。彼らは自分たちが好きなものや、信じてるものに対して、ものすごい献身的に一貫してやっているという。ストイックに追求している人たちですよね。もちろん日本のアーティストに限らない話だとは思うけど。

浅沼さんが海外に誘った人たちは少なくともそういう傾向のある人ってことですね。

Yuko Asanumaそうそう。「これが本当に好きで、これを極めたくて努力しているんだな、もしくは努力というか。。 自分はこれしかできない」というようなところかな。Nobuくんも「俺の特技はコレしかない」というようなことを言うタイプじゃないですか? そういう気合いの部分ですよね。そういう人には心を動かされますよね。ベルリンは良くも悪くもアーティストが住みやすいので自称アーティストばっかりでもある。ユルくやってもなりたつこともある。ヨーロッパは文化や芸術なんかに対するあらゆる補助がいっぱいあるわけなんですよ。例えばアーティストへの収入補助とか、アーティスト・レジデンシーとか。民間でも発表の場を見つけるのは結構簡単なんですよ、気にしなければそのハードルが低くて。それがいいところでもあり、洗練されていないものが溢れている理由でもあるという。逆に日本はアーティストに対してすごい厳しい社会だから、それでもやっているというのは並の気合いではないという感じはあるよね。ベルリンのユルい連中と比べると、意気込みからして違う。それ故の説得力って、音楽表現でも出てくるかなというのはある。日本を離れてみていると、音楽への評価って「メジャーなフィールドで売れているか売れてないか」ぐらいじゃないですか。ヨーロッパを見習うべきところは商業的な成功と、芸術としての評価は別の軸があって。売れていない=収益がなくても、ちゃんと評価して観てくれる人がいるという。

日本だとそういうものに対して公のお金がでていくことに対して、下手したら嫌悪感がある人すらいるという。

Yuko Asanuma芸術として、これまでにないことをやっているから存在価値があるというようなところで。日本で苦戦していても、自分がヨーロッパのその価値観に差し出すことで評価されたりしたらうれしいなと。

そういえば2019年の話をすると、アフリカのフェス〈Nyege Nyege Festival〉に行ったのが衝撃的だったとか。

Yuko Asanumaひとことでは言えないけど、とにかくカルチャー・ショックだった。日本であのフェスを知った人というのは〈BOILER ROOM〉の映像だと思うんですけど、現地の感覚はあれでは伝わり切らないと思う。まず規模としては1万2千人。95%はアフリカから集まってきた人たちで、あまりヨーロッパ人がいない感じ。

音的には?

Yuko Asanumaいわゆる四つ打ちの音源はないですね。ヨーロッパから来た人がそういう音源をかけてて。。いちばんそういうものに近いのはGQOMぐらい。アフリカ勢はそういう音源はほぼ無かったっすね。私自体が、アフリカのいまの音楽をそんなにフォローしているわけではないから「これがこのジャンル」というのはわからないんだけど。アフリカ各地のストリート・ダンス・ミュージックが集まっているという感じなんだと思う。そう、かなりストリート感強めの。そういったDJがダンス・ミュージックをやっているブースもあれば、メインステージではアフリカン・パーカッショニストとポルトガルのエレクトロニクスをやるバンドが出てたり。

ジャズとかは?

Yuko Asanumaジャズはないんだけど、普通に現地で人気のあるR&Bシンガーとか、ストレートなケニアのラッパーとか、ダンスホールっぽいシンガーとか、そういうアーティストが結構出てましたよ。地元の若い子たちはそういう出演者目当ててきているんだろうなという盛り上がりで。実験的なステージもあるけど、そこは好奇心旺盛な人しかこないという感じで。

どうして行こうと。

Yuko Asanumaまずは純粋な好奇心というのがひとつ。彼らがやっている海外との係わり方がおもしろくて。例えば日本でいままでも海外からフェスのブランドを輸入して、現地の音楽シーンの人たちを巻き込んで開催してというのはたくさんあったと思うんですよ。でも、それだけだとそこから関係が生まれて、地元のアーティストのメリットがあるかどうかということになるとあまりなかったと思うんですよ。〈Nyege Nyege Festival〉はそこをめちゃくちゃうまくやっていて、海外のフェスとパートナー・シップを結んで、ショーケースみたいな形でなにげに多くのフェスで出てたりするんですよ。そして、アフリカ内の他の国やそれ以外からも、アーティストを呼んで現地のミュージシャンとコラボさせて滞在制作をたくさんやっている。単に「呼ぶ」というよりも、異文化交流から新しいものを生み出そうという目的意識を持ってやっている。日本はそれがないからやったらおもしろそうだと思って。もちろん〈Nyege Nyege Festival〉に行ったのは、「なんじゃコレ」って思うようなアーティストを呼んでみたいというのもあって。

フェスの交換留学的な、でもそれアジアの他の地区もまぜたらおもしろそうですね。

Yuko Asanumaそうそうインドネシアとかも相当おもしろいらしいんでね。

Berlin

さて、そろそろまとめ方向に。10年ベルリンに住んでみてどうですか? 例えばテクノとかハウスのシーン。

Yuko Asanumaやっぱり変わってきたと思う。2008年頃からもうちょっとテクノにしても音楽性が広がってきたというのはあって。で、さらに10年経って、さらに音楽性は広がっていると思う。2000年代後半は、例えばダブステップがベルリンでかかるパーティって、〈Wax Treatment〉と、スキューバの〈Berghain〉のパーティ Sub-stance。本当にそれぐらいだったのが、いまはUK系のベース・ミュージックみたいなものが普通のクラブ・ミュージックのパーティにちゃんと混ざり込んでいて。そこにあんまり抵抗感がないっていう。私がはじめていった頃だと〈Panorama Bar〉でさえ、歌モノのハウスがかかると「え?」みたいな雰囲気があって。Nick HoppnerとかTama Sumoとかはそういうヴォーカル・ハウスとかはかけてたけど、彼らはレジデントだからまた違ったリスペクトの部分もあって。その流れでそういうハウスをかけるアーティストだと、そのまま残ってくれるけど。単体で、よそから来ているゲストDJがそういうことやるとフロアから人がいなくなることもあった。ディスコとか全然かからなくて。そういうものでもOKになったのはここ5年くらいだと思う。2008年とか2009年とかはPrins Thomasですら、さーっとお客さんが3割ぐらい減っていくという。テクノのパーティ行ったら、テクノだし。ハウス行ったら、ハウスだし。ハウスといったらニューヨーク・スタイルよりも、シカゴ・ハウスっぽいノリの方が人気があった。その部分でもいろいろ混ざってくるようになったのは、やっぱり人が混ざってくる様になったからだと思う。それは観光客も住んでいる人もあると思う、そのおもしろさが出てきてるんじゃないかな。でも、おもしろい反面、いまベルリン・サウンドはなに?ってなったときに「コレ」っていうのはないですよね。たとえば2000年代真ん中とかはリッチーとかリカルド、〈Perlon〉とかね、あの街のサウンドというようなものがあったと思うけど。

ちなみにレゲエは?

Yuko Asanuma もちろん私もいろいろ隅々まで行っているわけではないけど、あまりないかな。例えば〈Wax Treatment〉みたいなパーティがあったとしても、そこで誰かがガンガンレゲエをかけているというわけではないというか。〈YAAM〉っていうクラブが、レゲエのクラブという感じで例えばジャー・シャカが来たらそこでプレイする。基本的にアフリカ系の移民のコミニティという感じはあるかな。そこに白人のドイツのドレッドのおじさんみたいな人はいるけど、でもそこはちょっと特殊で、いわゆるベルリンのクラブ・ミュージックの続きという感じでもなくて。もちろんそこにはちゃんとコミニティは小さいながらもあると思うけど、他と混ざるという感じはないかな。もちろん〈Hard Wax〉には、レゲエのセクションもあるけど、ほとんどのお客さんはテクノを買いにいく。最近、Steffiがレゲエをけっこう買っているというのはバイヤーにきいたことがある(笑)。あとは〈Hard Wax〉の近くに〈Sound Metaphors〉っていうスイス人の子たちがやっているレコード屋さんがあって、そこはレゲエとかも結構おいてて。Sotofettが出入りしているようなお店で、あとはブリストルのYoung Echo系の音源とかを売ってて。逆にそういう音は〈Hard Wax〉では売って無くて。

ああそうなんですね、意外です。テクノの〈Hard Wax〉、もうちょっとベース系よりの東京で言う〈Disc Shop Zero〉みたいな

Yuko Asanumaそうそう。そういうセクションがあるお店。全体から見ると、やっぱりテクノに比べるとレゲエっぽい色はものすごく小さいですね。

ベルリンのダブというとやはりそれこそベーシック・チャンネル~リズム&サウンドがありますが。

Yuko Asanumaでも、いわゆるルーツ・ダブとかが根付いているかというとそうでもなくて。もちろんミニマル・ダブみたいなものを作っている人、DJでかける人はたくさんいるけど、彼らはレゲエということよりも、いわゆるベーシック・チャンネルみたいなものを手本に作っているということだと思うから。

今後の野望は?

Yuko Asanuma作品を聴くのも好きなんですけど、私はやっぱり現場のパフォーマンスが好きなんで、さっき言ったフェスどうしの交換パートナーシップをもっとやってみたいですね。そこから無理のない形で作品とかができてきたらいいかなと。意味のないコラボとか、B2Bとかは本当に好きじゃないので。自然にアーティスト同士の気があってやるならいいんだけど。これまでやってきた仕事も基本的に「まだ結びついていない、こことここを結びつけたらいいんじゃないだろうか」ということを結びつけてきてずっとやってきたので、そういうのが形になる機会があればいいなと思っています。

じゃあ、Undefinedをベルリンで。

Yuko Asanumaいや、もちろん呼びたいですよ。良い場を考えて、作りたいなと。ただブッキングするならできないことはないと思うんですけど、本当にハマるところところに紹介したいなと思ってます。そういえば今回、どんな話きかれるのかなと思って、いろいろ思い出してたんですけど、私、DJクラッシュの追っかけだったじゃないですか(笑)。

知ってます(笑)。

Yuko Asanuma正直言ってレゲエとかルーツ・ダブを集中的に聴いてた時期はないんだけど、音感的にはすごい好きな音なんですよね。マッシヴ・アタックとポーティスヘッドは高校生の時に本当にすごい聴いていてそこがもちろん入り口だったりしますし。ひとつ“ダブ”ということできっかけがあるとすると、クラッシュさんの1stでこだま和文さんをフィーチャーしている「On The Dub-Ble」という曲。いま思うとサウンドもヒップホップというよりもダブで。あの曲がクラッシュさんの音楽により深くのめり込むきっかけになった曲というか、クラッシュさんの曲はほとんど好きなんですが、そのなかでもダントツで好きな曲なんですよ。もちろんそこでこだまさんの存在も知ったし。不思議な縁でカーン&ニークとかピンチのエージェントになりましたけど、やっているサウンドはやっぱり好きなんですよね。

まぁ、1990年代後半、Zineまで作っていたのめり込んでいたアンダーグラウンド・ヒップホップもサウンドの音感的には近いところありますよね。

Yuko Asanumaそうそう。それこそワード&サウンドとかもね。自分的にはテクノも好きだし、でも一周してサウンドとしてのダブの感じに戻ってきている感じはあると思う。

location:虎子食堂 at 渋谷
interview date:2019.12.10