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talking place 内田 直之インタビュー:〈後編2-2〉 ─ダブ・エンジニアという生き方─

talking place#14
with Naoyuki Uchida

ダブの探求

ミキシング・ブースの外側に、打ち込み機材とエフェクター類、ミキサーとモニター・スピーカーがあってちょっとしたダブ・ミックスで演奏ができるようになってましたけど、ライヴ・ダブの瞬発力を磨くみたいなところでやっぱり練習って大事だったりするんですか?

内田そうですね。練習とか機材の使い方も掘りたいのもあって。しょっちゅうやってないとなまっちゃうんで、空いた時間にライヴ・ダブ・ミックスは、ちょいちょいやってますね。いろいろいまだに機材は買って試してますね。ビンテージからチープなものまで、予算が許す限り延々とやってるタイプですね。

その探求が楽しくてしょうがないという。

内田まさにそうですね。それだけはずっと昔から変わらないですね。専門学校に入ったぐらいからずっとで、全然変わらない自分の趣向だと思う。

中心はエフェクターですか?

内田そこはありますけど、やっぱりレコーディングってことになると広範囲に深くて……まずはマイクからはじまって、マイク・プリアンプ、ケーブル、コンプ、いまはプラグインもあってという、沼どころか……海のような広さの沼が広がってますよ。

いまはまっているのは?

内田機材にはまってるっていうよりも、デシベルとかフリーケンシーの数値そのものにハマってますね。

ノウハウとしてノートに書き留めたりってことですか?

内田それももちろんあるんですが、自分に「いま何デシベルか?」クイズを出して、当てるという。BPMも「いまは155? あ、惜しい」とかひとりでやってます(笑)。

コロナ禍はひとりでぶつぶつ言いながらここでやっていたと(笑)。

内田わりとそうですね。

スタジオに関しては理想の環境ですか?

内田いや、まだぜんぜんですね。音に関してやっぱりまだまだ理想はいろいろあるんだけど。

では理想というよりもやっと自分のスタジオとしてスタート地点に立てたというか。

内田そういう感じかもしれませんね。レコーディング機材って、最終的にパーツひとつで音が変わってしまう世界じゃないですか、そうなるともっと良い音を出したいと思うと、「こういう機材が欲しい」と……もうそれが本当につきない世界ですね。レコードを聴きながら「なにを使ったらこういう音が出るんだろう」とか「どういう録り方をしたらこうなるんだろう」って、絶えず考えていて、本当にその繰り返しですね。

内田さんのなかで一番良い音、もしくは好きな音みたいなところで思い浮かぶ作品ってなんですか?

内田いや~、うーん。「良い音」って、ほとんどの音が「良い音」だと思うんですよ。なんだろうな。

リファレンスというか、昔のものでも。

内田やっぱりリズム & サウンドかな。アレはやっぱり録音物としてめちゃくちゃ飛び抜けている。首尾一貫しているというか、レコードのカッティングに至るまで。本当にあのレコードを超える録音作品はないんじゃないかと思うぐらい。音の深さ、コク、密度、どの要素をとっても。楽曲がかっこいいのはもちろんなんだけど。常にリファレンスとして聴き続けている作品。音の面に関しては本当そういう作品。

例えばこの前のキャリア30周年の2デイズですが、LITTLE TEMPOとOKI DUB AINU BAND、二日目はTURTLE ISLANDとGEZANという並び、まさにいまの内田さんの活動の中心になっている4つのバンドということだと思いますが、GEZANで内田さんの存在を知った若い世代も多いかなと、4つのバンドのなかで、GEZANが世代として若いですよね。

内田彼らは本当、エネルギーがやっぱり溢れてるというか、音楽以外の活動でもいろいろなプロジェクトの動きとか考えてることとか、すごいなと思いますよ。やっぱり影響をうけるところもありますよ。それはそれぞれのやりかたでGEZANに限らずですけど。

そうだ、今回はダブ・アルバム5選をしてもらおうかなと、いきなりは難しそうだったんで事前に質問状を送っておきましたが……いかがでしょうか?

内田「うわ~この質問きたか、一番難しいやつだ」って(笑)。でも、選びました。King Tubby『Dub Inventor Vol. 1』ですね。これはファットマン・リディム・セクションのダブ・アルバムですね。アナログ・シンセが鳴ってるダブ。次はトレジャー・アイルのロックステディ音源の『Pleasure Dub』。とにかくこれはずっと聴いてられるダブですよね。曲間とかも含めての当時の空気感がとにかく好きですね。5選は難しいですよね……。次はスタワンの、Dub Specialist『Hi Fashion Dub Top Ten』。これも曲がやっぱり好き。いい時代だったんだろうなというのがすごく伝わってくる。で、次はSir Collins『Peace And Love』。これもどこかで再発が出てたと思うけど。サー・コリンズのダブ・アルバムですね。いわゆる他のダブ・アルバムと違ったアンユージュアルな音が好きなんですよね。このアルバムに関しては、録音の音がいいなと思って。でも今回選んだのは、どれも素朴なやつですよ、単曲でこの曲がキラーというよりも、どちらかと言うとアルバムとして好きという作品が多いですね。で最後はパブロ、Augustus Pablo『Rockers Beat Street Dub』これはFMシンセのダブで、最近こういう音がちょっと気になってて。これはそれこそダブを聴き始めて初期の頃に買った作品で、とにかく聴き倒した作品ですね。

なんというか最後に根源的な質問ですが、さっき録音がとにかく楽しいという話がでましたが、内田さんに「コレがやりたい、エンジニアになりたい」と思わせたものとして内田さんにはダブ・ミキシングがあるわけですが、やっぱりいまでも楽しいですか?

内田やっぱり楽しいですよね。

個人的には内田さんのレゲエのダブ・ミックスをもっと聴きたいんですよね。もちろん光風GREEN MASSIVEとか西内徹さんのソロとか、ダブ・アルバムがリリースされていること自体が、いまの日本だとすごいことだ思いますが。

内田自分ももっとやりたいですね。家でもダブばっかり聴いているので、最終的にダブ用の機材ばっかり買ってるし、ダブだけはずっと好きなんですよね。もちろん音楽全般好きで聴くんだけど。

いろいろその時々で聴く物は違うけど、中心にはずっとダブがあるという。

内田だからダブであればもうなんでも好きっていう。民族音楽だろうが、ロックだろうが、ダブ的な要素があったらなんでも好きっていう。そういうダブの要素がある音楽性だと「なんだコレは」ってなって、すぐにレコードを買ってしまうという。

スタジオとかレコーディングに関して、今後もっとやってみたいとか、こういうことをやってみたいということはなんでしょうか?

内田やっぱり頭から最後までアナログでのミックスをやってみたいですね。それはずっと自分が思い描く理想でいまどきは難しいですよね。テープなんてすごい高いですから。誰かその機会をください!(笑)。でも、それは自分の理想であって、デジタルでもおもしろいものができればそれでいいと思うし、そうして作られたおもしろいレコードはたくさんありますからね。音のこだわりの部分で言えばアナログが好きだけど、「この素材なんですが、なにかおもしろいものを作りましょう」みたいなオファーの方がエンジニアとしては燃えるというか。そうやって工夫する気持ちがあれば面白い音楽ってできると思っているので。

location:牧郷ラボ
interview date:2023.01.14